アリスタIPM通信 昆虫寄生菌製剤の上手な使い方
 
 
昆虫寄生菌製剤の上手な使い方
 
宮崎県 営農支援課 黒木修一
 
マイコタール水和剤やボタニガードESなど、昆虫に寄生するカビを主成分とした生物農薬があります。
スワルスキーカブリダニやタイリクヒメハナカメムシなど天敵製剤が化学合成農薬とは全く違うものであることは、誰でも見てすぐ解ります。つまり、化学農薬とは使用法が違うことがすぐ理解できます。ところが、カビを主成分としたこれらの製剤は、製剤の形状からは生物農薬とは解らない製剤ですから、化学農薬と同じ使い方をしてしまうことがあります。生物農薬と化学農薬の上手な使い方は大きく違っているので、ここではその使い方について紹介します。


身近な昆虫寄生菌
昆虫に寄生するカビ(以下、昆虫寄生菌)はたくさんありますが、害虫防除用に製剤化されて市販されているのはこのうちごく一部です。冬虫夏草(とうちゅうかそう)という漢方薬としても使われるものがありますから、むしろ薬として知られているかもしれません。田畑や雑草を見て回ると、様々な虫が昆虫寄生菌に感染して死亡しています。気付いている方は、相当な数の昆虫が昆虫寄生菌に感染して死んでいることに気付くでしょう。秋にはバッタが草にしがみついて死んでいるのがよくわかりますが、ダイズやサツマイモ畑ではハスモンヨトウなどがよく目に付きます。コナジラミ類やアザミウマ類、ハモグリバエ等も実は相当感染して死んでいますが、これは害虫が小さすぎて気付かないことの方が多く、感染死していても表面に菌糸が見えない「死にごもり」状態のものが相当いますから、いよいよ気づきません。また、アザミウマ類では、植物の表面で死んでいるものよりも、果実のヘタの下や土中で死んでいるものが多くいますから、意識して調査でもしない限り気付くことがまずありません。身近にありながら気づかない存在です。
昆虫寄生菌製剤の上手な使い方

海外での使用法
国内で市販されている昆虫寄生菌製剤のうち、幾つかの製剤は海外でも市販され、使用されています。日本には農薬取締法に基づいて定められた農薬の使用方法があるように、海外のそれぞれの国でも使用方法があり、日本とは異なった方法で使用されていることがあります。例えば化学農薬は、10a当り100L散布しようが1,000L散布しようが、1,000倍なら1,000倍と定められた希釈倍数で使用しないと効果がありませんが、昆虫寄生菌の場合は、希釈倍数と並んで「使用量だけ」が示されていることがあります。つまり、100gの製剤を何倍に希釈しても、使用された菌の量が同じならば防除効果は同じということです。わかりにくいかもしれませんが、1,000倍液を100L/10a散布するのと、2,000倍液を200L/10a散布するのでは、使用した製剤の量が変わりませんから、基本的には防除効果が変わりません。むしろ、200L/10aを散布する方が、害虫に液がかかりやすい(かけムラが少ない)ことから防除効果が高くなることがあります。このため、高濃度少量散布の繰り返しや、低濃度多量散布といった方法を目的に応じて実施されています。


散布時期
害虫が見えてから散布するのでは無く、野菜を定植したら、すぐ薄い液の散布を開始して、圃場内に菌を定着させ、害虫を待ち伏せするのがベストです。化学農薬は、残留しないように散布後すぐに分解が始まりますが、昆虫寄生菌は条件が良ければ、かなり長い期間土壌や作物の表面で生きています。

写真7は、昆虫寄生菌製剤を散布して24時間後のアブラムシの脚を電子顕微鏡で撮影したものです。散布24時間では、散布した菌が昆虫に感染して、脚から出てきたとは考えられません。写真をよく見ると、葉の表面を菌糸が匍ってきて脚に絡みついていることが見えます。このように植物や土中で害虫を待ち伏せさせるのが昆虫寄生菌製剤の本当の使い方です。
昆虫寄生菌製剤の上手な使い方
 

希釈濃度と使用量

国内では、農薬取締法に定めた使用方法に従う必要がありますが、例えばボタニガードESは、トマトでは500~2,000倍で、散布量は100~300Lの幅がありますので、この範囲の内で目的に合わせた使用方法を選ぶことができます。もし、目の前の害虫を即死させたいなら濃い濃度、遅効的な効果でかまわない場合には薄い濃度で使用することになります。したがって、害虫が見えない(実はいるのかもしれないけれども気付かない)時期には薄い濃度、すでに見えるならば濃い濃度で使用するのが良いでしょう。
昆虫寄生菌製剤の上手な使い方
 

湿度と温度

また、昆虫寄生菌製剤は「カビ」なので、高湿度を好みます。これは確かにそうですが、あえて高湿度にする必要はありません。普通の栽培管理をしていても、いろいろな作物病害が発生するのですから、植物の表面は常に高湿度であることが理解できます。日本は海外とは違って元々高湿度ですので、普通に作物が栽培できる環境であれば、問題なく使用できます。散布した後に「高湿度に保つ」などということをすると、作物病害の発生を助長し、殺菌剤を多用するはめになりますので、普通にすることが必要です。確かに、湿度が高いと、感染死した害虫の表面に菌糸が旺盛に発生しますから、2次感染するための胞子量が増えます。湿度が低いと「死にごもり」が多くなるので,菌が増えて次々感染していく劇的な効果を体験しにくくなります。しかし、作物病害を考えると、湿度を上げるのではなく、2次感染が起きにくい分、繰り返し散布していくことが重要です。つまり、湿度よりも、繰り返し散布する方法を考えることの方が重要です。

温度は高すぎるとかえって生育しにくい菌が多く、培地上では25℃程度で旺盛に生育します。カブリダニ等の天敵は、一般に害虫より発育零点が高いので、比較的高温時に防除効果を発揮しますから、つい昆虫寄生菌も同じように考えてしまいますが、昆虫寄生菌で「害虫を防除」する適温は、実験的な適温よりもやや低いところにあります。この理由は、低温になると害虫の脱皮の間隔が延びることにあります。昆虫寄生菌は昆虫が脱皮するまでの間に、昆虫に侵入しなければ感染できませんので、脱皮の間隔が短いと、感染できないまま脱皮殻と一緒に脱ぎ捨てられてしまいます。温度が低く、害虫の脱皮の間隔が伸びると、その間に感染します。昆虫の脱皮の間隔が半日延びれば、湿度が比較的高くなる夜が1回増えますから、これで防除効果が高まります。昆虫寄生菌は、多くの昆虫の発育零点である10℃以下でもすこしずつ成長しますから、「脱皮期間は長くなったけど、昆虫寄生菌の生育はあまり変わらない」20℃程度のやや低い気温のときに、防除効果を発揮しやすくなります。


散布前の給水
種籾に吸水させて一気に芽をださせるように、散布前に2時間程度の吸水をさせておくと、昆虫寄生菌が一斉に発芽してきますから防除効果が高く、安定してきます。これは、先に述べた昆虫の脱皮との関係です。吸水はオススメですが、作業上どうしても時間が無い場合には吸水させなくても、効果がなくなるわけではありません。吸湿した菌から順番にだらだらと発芽するので、速効性がやや低下するだけのことです。このため、目の前の害虫をすぐ殺したいときには、吸水させることが良いでしょう。このとき、水道水を使うとカルキで菌が減ることがありますので、汲み置き水か、水を勢いよく出してカルキを抜く必要があります。

化学農薬との混用
昆虫寄生菌は生物農薬なので、「減農薬のために」使用する方もいるでしょう。しかし、昆虫寄生菌の効果を発揮させる最も簡単な方法は、化学農薬との混用です。近年は、化学農薬の防除効果が低下した害虫が数多く報告されていますが、防除効果が全くゼロになった化学農薬があるわけではありません。化学農薬を使用すると、人間の白血球にあたる昆虫の細胞が減少することが知られています。また、化学農薬に触れた害虫は死なないまでも「具合が悪く」なります。餌を食べる量が少し減れば、その分脱皮の間隔が延びます。先に述べたように,脱皮の間隔が少し延びるのは、昆虫寄生菌が昆虫にとりつくチャンスを増やします。これらのことが、昆虫寄生菌の防除効果を高める要因になっています。また、昆虫寄生菌は天敵と違って、防除対象となる害虫が生きている必要がありません。昆虫の死体は脱皮しませんから、効率よく感染し、2次感染を起こす菌を増殖する培地になります。

化学農薬と昆虫寄生菌には、混用表に示されるように相性がありますが、多少影響があっても混用して使用することにメリットがあります。「死んだら足せば良い」くらいの感覚で、殺虫剤であっても殺菌剤であっても、葉面散布肥料であっても混用し、繰り返し散布することのメリットを取る方が効果は出てきます。混用に一々頭を悩まし、混用の相性を調べる時間にかかる経費と心理的負担を考えれば、混用で多少死んでしまう昆虫寄生菌は安いものです。

昆虫寄生菌製剤の上手な使い方

昆虫寄生菌使用のポイント

昆虫寄生菌製剤はカブリダニのような天敵よりも、ある程度「雑」に扱うことができます。少なくとも、
1. 薄い濃度を繰り返し散布する。
2. 定植(発芽)したらすぐ散布を開始する。
3. 温湿度は普通に管理する。
4. 化学農薬と混用する。
という4つのポイントを理解して使用することで防除効果を得ることができます。


今後は天敵類の使用が増えてくるでしょうが、天敵で防除できるのは天敵が攻撃する害虫だけで、全ての害虫を防除することはできません。昆虫寄生菌は幅広い害虫に防除効果があり、害虫がいないときには葉上や土中の栄養分を活用しながら生き残る残効の長いものであることから、総合防除を行う上で下地になる重要な資材です。防除効果が目に付きにくいものなので、「じっくり長く効かせる」という気持ちで焦らず繰り返し「漢方薬のように」使うことがコツです。

 
 
※2014年1月31日現在の情報です。製品に関する最新情報は「製品ページ」でご確認ください。