アリスタIPM通信 メタリジウム粒剤(パイレーツ粒剤)を利用した施設ナスおよびキュウリのミナミキイロアザミウマの防除
 
 
メタリジウム粒剤(パイレーツ粒剤)を利用した
施設ナスおよびキュウリのミナミキイロアザミウマの防除
 
(地独)大阪府立環境農林水産総合研究所 柴尾 学
 

はじめに
ミナミキイロアザミウマThrips palmi Karnyは海外からの侵入害虫で、果菜類の収量や品質を低下させるとともにメロン黄化えそウイルスを媒介します。本種は多くの殺虫剤に抵抗性を発達させており、栽培現場からは殺虫剤のみに頼らない防除技術の開発が求められています。

このような状況の中で、今回、新規微生物殺虫剤として『商品名:パイレーツ粒剤』が開発されました。本剤はメタリジウム アニソプリエSMZ-2000株(1×107CFU/g)を含み、2014年2月にナス(施設栽培)、キュウリ(施設栽培)、ピーマン(施設栽培)のアザミウマ類に対して農薬登録されました。破砕米の表面にメタリジウム菌をコーティングした粒剤タイプの製剤で、アザミウマ類の発生前~発生初期に5g/株(5kg/10a)を作物の株元に散布します。アザミウマ類の幼虫は蛹になるために作物の茎葉部から土壌に落下する性質があるため、製剤を散布すると、メタリジウム菌が落下してくるアザミウマ類幼虫を土壌表面で待ち伏せし、感染により短期間で死亡させます。

著者はメタリジウム粒剤の利用による施設ナスおよびキュウリのミナミキイロアザミウマの防除効果について試験を実施しました。本稿ではこれらの結果の一部を紹介するとともに、利用のポイントを検討します。

Ⅰ 半促成栽培ナスにおける利用事例
2011年に環境農林水産総合研究所内の施設ナスにおいて、防除試験を行いました。処理区では施設開口部に防虫ネット(目合1 mm)を展張し、4月8日に5 kg/10 a相当の本剤を株元処理しました(写真-1)。なお、メタリジウム菌を繁殖させるため、灌水チューブを用いて畝上に滴下灌水するとともに、株元を稲わらでマルチしました。その結果、ミナミキイロアザミウマの密度は成虫および幼虫とも処理区が無処理区より低く抑えられ、とくに成虫の密度は低く抑えられました(図-1)。なお、処理区ハウスにおける試験期間中の最高温度は20.9~40.6℃、平均気温は15.1~27.1℃、最低気温は3.0~20.4℃で推移しました。

 
 
 
Ⅱ 抑制栽培キュウリにおける利用事例
2012年に環境農林水産総合研究所内の施設キュウリにおいて、防除試験を行いました。処理区では施設開口部に防虫ネット(目合1 mm)を展張するとともに、9月7日に5 kg/10 a相当の本剤を株元処理しました。なお、メタリジウム菌を繁殖させるため、灌水チューブを用いて畝上に滴下灌水するとともに、適宜散水して畝面が十分湿るようにした。その結果、ミナミキイロアザミウマの密度は成虫および幼虫とも処理区が無処理区より低く抑えられ、とくに成虫の密度は低く抑えられました(図-2)。なお、処理区ハウスにおける試験期間中の最高温度は18.4~49.9℃、平均気温は15.8~31.0℃、最低気温は8.4~23.8℃で推移しました。
 
 
 
Ⅲ スワルスキーカブリダニとの併用事例
大阪府の泉州地域の半促成栽培ナスでは、ミナミキイロアザミウマ、タバココナジラミ、チャノホコリダニの防除のために捕食性天敵スワルスキーカブリダニの導入が進んでいます。2013年に所内の施設ナスにおいて、本剤処理とスワルスキーカブリダニの放飼の併用による防除試験を行いました。IPM区では施設開口部に防虫ネット(目合1 mm)を展張するとともに、3月15日と5月2日に5 kg/10 a相当の粒剤を株元処理するとともに、4月9日にスワルスキーカブリダニのパック剤を200パック/10a放飼しました。なお、メタリジウム菌を繁殖させるため、灌水チューブを用いて畝上に滴下灌水するとともに、株元を稲わらでマルチしました。

その結果、IPM区ではスワルスキーカブリダニの定着が認められ、ミナミキイロアザミウマの密度は成虫および幼虫とも慣行防除区より低く抑えられました(図-3)。また、ミナミキイロアザミウマに対する薬剤散布回数は慣行防除区では7回でしたが、IPM区では4回となり、IPM区では薬剤散布回数が削減されました。
 
 
Ⅳ2014年の半促成栽培ナスにおけるパイレーツ粒剤展示試験
2014年、大阪府の泉州地域(泉佐野市、貝塚市、和泉市など)の半促成栽培ナスにおいて本剤の展示試験を実施中です。地域内の8か所の施設ナス(品種:水なす、面積10~20a)において4月上中旬に本剤を処理しました。施設には灌水チューブとマルチが設置されており、マルチの隙間から本剤を土壌表面に散布しました。また、ほとんどの施設においてスワルスキーカブリダニが放飼されています。
6月中旬現在、いずれの施設においても土壌表面で暗緑色のメタリジウム菌の繁殖が確認され、湿り気の多い施設では菌の増殖が速くなる傾向がみられました。ミナミキイロアザミウマの密度は5月末までは低く抑制され、6月からはやや増加傾向となりました。本剤の処理による防除効果は認められたと考えられ、効果の持続期間は2か月くらいではないかと推測されました。今後もメタリジウム菌の繁殖状況とミナミキイロアザミウマの発生状況の調査を継続する予定です。


Ⅴパイレーツ粒剤の利用のポイント
1.防虫ネット
本剤はその作用機作と処理方法から地表に落下したミナミキイロアザミウマ幼虫や土中の蛹に有効ですが、ハウス外から侵入してくる成虫には効果が得られません。少なくとも目合い1㎜以下の防虫ネットの展張が必要です。

2.土壌表面の湿度の確保
本剤は糸状菌製剤のため、土壌表面が極端に乾燥する条件では防除効果が低下します。畝面には灌水チューブなどを設置して土壌表面が乾燥しないようにします。また、植穴タイプのビニルマルチ被覆を行う場合は植穴の部分に所定量の粒剤を散布します。畝の両側からビニルマルチ被覆を行う場合はマルチとマルチの隙間に粒剤を散布します。稲わら等によりマルチしても効果的です。

3.土壌表面温度
メタリジウム菌の生育温度は15~35℃で、最適温度は25~28℃であることが知られています。これまでの施設ナス、キュウリにおける試験事例では施設内の最高気温が49.9℃、最低気温が3.0℃とに達した場合もありましたが、防除効果に及ぼす悪影響は認められませんでした。一般的な施設環境では極端な高温や低温が長時間継続することはほとんどないため、温度に対する特別な注意は必要ないと考えられます。

4.スワルスキーカブリダニなど他の生物農薬との併用と同時に使用する薬剤の影響
本剤はその処理方法から考えて、スワルスキーカブリダニなど株上に放飼する捕食性天敵に対する悪影響はほとんどないと考えられます。紹介した試験事例でも本剤とスワルスキーカブリダニの併用による防除効果が確認されました。今後、スワルスキーカブリダニ以外の捕食性天敵についても併用の効果を評価する必要があります。一方、本剤に対する各種殺菌剤の影響を十分明確にしておく必要があります。本剤は土壌表面に処理しますが、一般的な作物への薬剤散布では薬液の大部分が作物体と土壌表面本剤に落下してしまいます。今後、悪影響を及ぼす薬剤を明らかにし、その使用に注意する必要があります。


おわりに
本稿ではミナミキイロアザミウマの防除効果を中心に紹介しましたが、抑制栽培キュウリの試験事例ではトマトハモグリバエ幼虫の食害痕数の抑制効果も認められました。現在のところ、本剤の適用病害虫はアザミウマ類のみですが、ハモグリバエ類など土壌中で蛹化する微小害虫に対する防除効果も期待されます。
また、本剤の利用は化学合成薬剤の費用や防除のための労力の削減につながることは間違いありません。今後、施設ナスおよびキュウリにおいてメタリジウム粒剤を利用したIPMプログラムを確立するため、地域の病害虫発生状況、施設の形状、作型に応じた実証試験を普及機関とともに継続し、さらに効果的な利用体系に発展させる必要があります。
 
 
 
 
※2014年7月23日現在の情報です。製品に関する最新情報は「製品ページ」でご確認ください。