アリスタIPM通信 イチゴ天敵利用最前線
 
 
イチゴ天敵利用最前線
~抵抗性ハダニ対策にスパイデックス年内追加放飼の有効性~
 
 
 
近年、カブリダニの天敵製剤:スパイカルEX、スパイデックス(以下、天敵)をイチゴのハダニ防除のために利用する人が年々増えており、ハダニ防除の基幹技術として定着しつつあります。しかしながら、ハダニの薬剤感受性の低下が顕著になり、ハダニ防除は困難を極め、新たな局面を迎えつつあります。

今回は、天敵導入時に既にハダニが発生している場合の秘策をご紹介します。

近年、これまでハダニ防除の切り札として利用してきた殺ダニ剤が効きにくくなり、栽培を早く切り上げざるを得なくなったり、最も肝心な天敵導入前のハダニ防除の不十分さや天敵導入後のレスキュー防除の効果不足等、天敵を利用する上でも無視できない問題が各地で生じています。ハダニの薬剤感受性の低下はイチゴ栽培者にとって深刻な問題ですが、そのような時こそ感受性低下に関係のない天敵の出番です。

まず、昨年の天敵導入前 推奨防除スケジュールを振り返ってみましょう。

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2011年頃からスパイカルEXとスパイデックスの同時放飼を推奨してきました(IPM通信第9号参照)。この同時に放飼するスパイデックスの目的は予防剤としての意味合いが強く、天敵導入前に防除しきれなかった少量のハダニ対策を目的としたものです。しかし、昨年のようなハダニの当たり年(栃木では平年の倍近い発生量!

参照:栃木県いちご病害虫情報より)では、ほとんどの生産者が上記のような防除をしっかり実施してから天敵を導入したにも拘らず、結果的には天敵の捕食能力以上のハダニが残った状態で天敵を導入することになり、年内から葉がクモの巣状になるほどハダニが増加してしまった圃場も多く見られました(下記参照)。
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これまでのイチゴ栽培では、年内に葉がクモの巣状になるまでハダニが増える圃場は少なく、選択性殺ダニ剤によるレスキュー防除で対処できていたため、スパイデックスの追加放飼の時期は、春のハダニ急増期までに十分量の増殖を目指し、年明け1~2月で推奨してきました(放飼量:3本/ 10a)。

しかし、レスキュー防除をしても薬剤の効果不足でハダニの密度を十分に下げることができない場合、年明けのスパイデックス放飼時期に既にハダニの密度が高くなりすぎている場合があり、天敵の捕食能力が追いつかず、なおかつ増殖するまでさらに時間を要することになり間に合わないケースも出ています。そのため、年内にハダニが発生していたら、年明けに予定していたスパイデックスの放飼を年内に前倒しすることで、早期に天敵の密度を高くして防除効果を早く得られるようにする方法が主流になりつつあります。
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上図の例は、天敵導入前から圃場全体でクモの巣状の葉が見られ、ハダニが非常に多い条件で天敵を導入した事例です。年内にスパイデックスを追加放飼したことで天敵の増加が早くなり、1月中のカネマイトによるレスキュー防除とスパイデックスのさらなる放飼によりハダニを急激に減少させることに成功しています。前作の天敵導入者の圃場を巡回していて感じたことですが、年内にハダニが多発生している圃場でスパイデックスを年内に追加放飼した生産者の多くは2~3月頃にはハダニの密度を十分に下げることができていましたが、1~2月に追加放飼した圃場では効果が発揮されるのが3~4月頃になっていました。年内の追加放飼はハダニ防除効果が安定しているため、生産者だけでなく指導者側のJAの営農担当者や県の普及員からも好評でした。

今作では天敵の導入前にハダニの発生が確認される場合は、スパイカルEX1本+スパイデックス3本/10aで放飼するやり方も広まりつつあります。なお、昨年同様の防除スケジュールでは、天敵導入前のハダニ防除が不十分という意見も多く頂いたため、今作は推奨防除スケジュールを変更しました。
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昨年は天敵導入前の2週間で2回の防除を推奨しましたが、前述のアンケート結果でも示されているように、ハダニ防除は不十分な場合が多いことが分かりました。一方で効果の高い新剤は登場しておらず、さらなる薬剤感受性の低下も懸念されるため、今作では天敵導入前の2週間で3回の防除を推奨しています(※コロマイトの天敵影響期間は、昨年まで2週間で案内していましたが、今年から1週間に変更)。

また、天敵導入前からハダニが確認されている方には、スパイカル1本+スパイデックス3本の同時放飼も推奨しています。
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前作は年内から非常にハダニの発生が多い年でしたが、天敵放飼量の増加や追加放飼の時期を前倒しすることで天敵を早く増殖させて、天敵の能力を最大化させて防除効果を安定させることができました。一方で、主要殺ダニ剤の感受性低下が顕著となり、以前のように安定した効果が得られない地域が増えたことで、天敵導入前にハダニの密度をゼロに近い状態にするのが困難になっています。ハダニが既に発生している場合は、年内に天敵を追加放飼することで早く天敵を増殖させることができるため、年明けには追加放飼用の購入本数の何倍もの頭数がフル稼働できることになります。

昨年ハダニ防除に悩まれた方、今作も既にハダニが発生している方、レスキュー防除の殺ダニ剤の薬剤感受性が低下していると感じている方、是非年内のスパイデックスの追加放飼をお勧めします!
 
※2014年10月30日現在の情報です。製品に関する最新情報は「製品ページ」でご確認ください。