アリスタIPM通信 北部九州の露地ナスにおけるスワルスキーと土着天敵を利用した害虫防除の取り組み
 
 
北部九州の露地ナスにおける
スワルスキーと土着天敵を利用した害虫防除の取り組み
 
製品営業本部第二営業部 フイールドアドバイザー
福岡・佐賀県担当 林 三徳
 
昨年5月よりスワルスキーカブリダニ(以下SWと略)が露地ナスで登録を取得したため、佐賀県内の2地域(佐賀市と相知町) 4カ所と 福岡県内の2地域(糸島市と朝倉市)3カ所の計7カ所で、「SW+土着天敵」体系による露地ナスの害虫防除に取り組みました。

その結果、工夫すると露地ナスで最大の問題であるミナミキロアザミウマの被害を抑制できることが判りました。
捕食しているスワルスキーカブリダニ
捕食している
スワルスキーカブリダニ

◆北部九州でのSW放飼は、5月中・下旬以降ならOK !
先ず、北部九州における施設キュウリ及びナスでのSWの利用経験から、SWが活躍できる条件は「日最低気温が14℃以上」の時期として、各試験地におけるSW放飼時期を考えました。上記の条件を満たす5月中・下旬にSWを放飼したところ、その後の調査結果からSWのナス株への定着は、いずれも安定していました。
なお、SWの放飼はSW製品の到着日ではなく、翌日早朝の凪状態の時間帯に行うのがSW製品の飛散がなく適当と判断しています。

◆SWは高温期に増え、降雨や強風には思っていた以上に耐え得る
次に、放飼したSWの密度推移ですが、定着後の6・7月は比較的低密度で推移しましたが、8月の高温期になると増加の傾向に変わりました。涼しくなるとSWの密度は低下しましたが、昨年は10月でもかなりの密度で生息していました(図1)。

北部九州の露地ナスにおけるスワルスキーと土着天敵を利用した害虫防除の取り組み


ここで、放飼SWへの降雨及び強風の影響を、各試験地で直近のアメダス観測地点における降水量及び瞬間最大風速を参考に検討してみました。
幾つかの試験結果から総合判断すると、確かにSWの密度は降雨及び強風の影響を受けます。しかし、台風15号が直撃した試験地で、直後にはSWが確認できない程の低密度になっていたのが、その後に密度回復が確認できたことや図1の結果等から、「SWは思っていた以上に降雨と強風に耐え得る。」と考えられます。

◆土着天敵; ヒメハナカメムシは6月上・中旬から発生。安定的な誘引には天敵温存植物(インセクタリープラント)を植え付ける土着天敵の中で最も期待されるヒメハナカメムシは、6月上・中旬から8月上旬にかけて発生し、7月に大きなピークがありました。その後、多くの試験地で確認できなくなりましたが、9・10月に低密度ですが再度発生する場合もありました。
勿論、SWとヒメハナカメムシ等に悪影響を及ぼす農薬は散布しないのが前提です。
なお、天敵温存植物を植栽していないナス圃場では、ヒメハナカメムシを確認できない事例もありました。
一方、施設・冬春ナスで利用が進んでいるタバコカスミカメは発生が少なく、その働きに期待するならクレオメ等の天敵温存植物の植え付けが必要と思われます。

朝倉①のIPMナスほ場
佐賀①のIPMナスほ場
朝倉①のIPMナスほ場
天敵温存植物として、ソルゴー、マリーゴールド、クレオメを植えている。
佐賀①のIPMナスほ場
天敵温存植物として、ソルゴー、ブルーサルビア、バジル、オクラを植えている。

◆6月は、ナス果実を加害するアザミウマは少なく、SWと土着天敵でアザミウマ被害は抑制できそう
アザミウマ類は、6月上・中旬にはナス葉裏や花に一定密度で確認できましたが、その殆どがネギアザミウマやヒラズハナアザミウマ、コスモスアザミウマでミナミキイロアザミウマではなく、ナス葉裏や果実に食害の跡も確認できませんでした。7月以降は、何れの試験でもアザミウマ密度は低く推移し、被害ナス果の発生も非常に少ないか殆どありませんでした(表1)。
北部九州の露地ナスにおけるスワルスキーと土着天敵を利用した害虫防除の取り組み
このことから、6月上・中旬のアザミウマ類は薬剤防除する必要がなくどちらかというと天敵類の餌となりえそうです。したがって、「SWと土着天敵を工夫して上手に利用すると、ナスのアザミウマ被害を抑制できる」と考えています。 

◆害虫防除の回数と時間が大幅削減
SWと土着天敵の利用により、殆どの試験で化学農薬のみで防除していた前年よりも害虫の防除回数が大幅に削減され、防除に要する時間も短縮されました。

特に、アザミウマ類を防除する回数は、一昨年は12回のアザミウマ防除が必要だった佐賀①の例では、昨年は定植前のベリマークSC灌注とSWの放飼のみで済みました(表2)。
北部九州の露地ナスにおけるスワルスキーと土着天敵を利用した害虫防除の取り組み
◆ソルゴーは天敵温存及び防風用に必須。その他の天敵温存には、天敵に対する誘引力だけでなく、害虫カメムシ等の誘引も考慮して選択
土着天敵が安定的に集まることを期待するには、天敵温存植物の植え付けが欠かせません。ソルゴーを植えておけば、アブラムシに対する各種の土着天敵が集まるため、ナスのアブラムシ防除は不必要でした。また、防風効果が高いので、ソルゴーによるナスほ場の囲い込み栽培は欠かせません。その他の天敵温存植物は、ヒメハナカメムシ或いはタバコカスミカメの誘引のために必要ですが、草種によっては各種の害虫カメムシも誘引されたので、選択にはこれらのことも考慮する必要があります。

◆天敵利用体系での問題点
アザミウマ類以外の害虫では、アブラムシは発生しても各種土着天敵によって農薬散布の必要はありませんでした。一方、ハダニの防除には数回の農薬散布が必要で、土着天敵のみに期待するのは困難と思われました。ハダニに対してはスパイカルEXが露地野菜類で登録を取得しましたので、次年度はスパイカルEXの利用も可能です。その他、ニジュウヤホシテントウムシとハスモンヨトウなどのチョウ目害虫、それに害虫の各種カメムシ等が問題となりました。

 この技術には、大きな可能性があることが判りましたが、天敵温存植物の選択などその地域でないと判らない点もあります。
北部九州では、残された問題を解決しながら当地に合った安定技術に仕上げていきたいと考えています。

 

※2016年2月9日現在の情報です。製品に関する最新情報は「製品ページ」でご確認ください。