アリスタ通信 新しい農業と「バイオスティミュラント」の必要性について(3)- 代表的なバイオスティミュラント -
 
 
新しい農業と「バイオスティミュラント」の必要性について(3)
- 代表的なバイオスティミュラント -
 
アリスタ ライフサイエンス(株)
プロダクトマネージャー(バイオスティミュラント担当) 須藤修

前号までにバイオスティミュラントの定義について説明いたしました。今回は代表的なバイオスティミュラントについて詳しく述べていきます。バイオスティミュラント学という体系的な学問が未だ確立していませんので、賛否を覚悟で大胆にグループ分けにチャレンジしてみました。まずは資材の種類ごとに6つのグループに分類を試みました。
バイオスティミュラント資材の分類
1. 腐植質資材 (腐植酸 [フミン酸]、フルボ酸)
2. 海藻および海藻抽出物
3. アミノ酸資材
4. 微量ミネラル、ビタミンなど
5. 微生物資材
6. 植物機能刺激成分 (植物エキスなど)

現在流通されている多くの農業資材を調査すると、上記の分類に収まりきらない場合や、複数の分類に跨っている場合もあろうかと思いますが、まずはこの6つのグループについて説明を始めていきたいと思います。

1. 腐植質資材 (腐植酸 [フミン酸]、フルボ酸)
腐植質は動植物の遺骸が長い年月にわたって地中に埋もれ、分解や合成を繰り返してできた茶褐色の物質です。酸性の水溶液に溶けるかどうかでフミン酸、フルボ酸に分類されます。
腐植質資材は、
①土壌の団粒化を促す 「物理的土壌改良効果」
②植物ホルモンなどの分泌を促し、呼吸や酵素の活性を高める 「生長刺激効果」
③植物に必要な栄養成分を効率的に保持し土壌の緩衝能力を高める(塩基置換容量の増大)「化学的土壌改良効果」などの作用を持っていると言われています。

腐植質資材は、土壌を柔軟にして通気性、保水性を高めます。また、栄養成分を豊富に保持することにより健全な植物を作ります。

これにより急激な環境変化によるストレスに対しても対抗できる力をつけてくれます。腐植質を多く含む土壌には、土壌微生物が活発に増殖しますので、植物をとりまく物質循環も活発になります。今後、有機農業への応用として利用される場面は益々増えていくでしょう。
新しい農業と「バイオスティミュラント」の必要性について(3)- 代表的なバイオスティミュラント -

2. 海藻および海藻抽出物

ヨーロッパの農業では、海藻や海藻抽出物を用いた活力資材が積極的に利用されています。我が国においても、古くから農家の知恵と経験の中で海藻を田畑に撒いていたという話は珍しくありません。海藻の成分にはカリウムやカルシウム、マグネシウムが豊富に含まれていて、良質な有機肥料資材であるということがわかります。しかし、近年はこれらの肥料成分以外の植物活性成分が豊富に含まれていることが分かってきました。

ヨーロッパを中心に利用されている「アスコフィラム・ノドサム」という海藻を例に挙げると、この海藻には、アルギニンなどの天然のアミノ酸、アルギン酸、ラミナラン、マンニトール、フコイダン等の多糖類、各種ビタミン、オーキシン、サイトカイニン、ジベレリンなどの天然の植物ホルモンが含まれています。

ある種のアミノ酸や多糖類は「適合溶質」と呼ばれる機能を持つ物質で、植物体内の浸透圧を正常な状態に保つ役目を持っています。このため、海藻資材を利用することによって、高温や乾燥による水ストレスに対抗できる健全な植物を得られることが分かってきました。

さらに興味深い話として、コンブの仲間である 「ラミナリア・デジタータ」 という海藻からはラミナランという物質が豊富に得られますが、このラミナランという物質には全身獲得抵抗性(SAR)という効果があることが分かっています。SARは動物に見られる自然免疫に似ており、植物自身が病害に対する抵抗を強化していきます。

海藻資材は、たとえば葉面散布を行うことで、植物の生長促進、微量要素の補給、増収や品質改善効果、病害に対する抵抗性付与など、様々な効果が今後注目を集め期待されるところです。

アスコフィラム・ノドサム
アスコフィラム・ノドサム
(Ascophyllum nodosum)
(干満の差の大きい海岸の浅瀬に生息 フランス)


ラミナリア・デジタータ
ラミナリア・デジタータ
(Laminaria digitata)


3. アミノ酸資材

植物は無機態の窒素を根から吸収していますが、これらの窒素成分は植物体内でアミノ酸に変化し、最終的にはたんぱく質が作られます。多くは酵素として働き、特に光合成において二酸化炭素を固定する酵素「ルビスコ」は植物に大量に含まれ、地球上で最も多いたんぱく質とも呼ばれています。アミノ酸資材は、この反応経路をショートカットして、たんぱく質の前物質であるグルタミン酸などを葉面散布などの方法で与えてやろうという考えから生まれました。
アミノ酸資材は、たんぱく質を加水分解する方法、微生物発酵による方法、コンブなどのアミノ酸を多く含む植物から抽出する方法などを経て生産されています。
植物に吸収されたアミノ酸は直接利用されます。
植物体内におけるアミノ酸の合成には相応のエネルギーが必要ですが、アミノ酸を散布するとエネルギーを温存できるため、作物が弱っている時の使用が特に有効であると言われています。

さとうきび (糖蜜の副産物としてグルタミン酸が得られる 沖縄)
さとうきび (糖蜜の副産物として
グルタミン酸が得られる 沖縄)


曇天が続き光合成が上手く行えない場合や、作物が外的なストレスを受けている場合に適しています。エネルギーを使わなければ余分な糖の分解もさけられますので、糖度をアップし、味をよくする効果も期待できます。アミノ酸資材の原材料は様々な動植物資材が利用されます。「さとうきび」や「とうもろこし」から糖を得る際の産物としてグルタミン酸が得られるほか、魚介類の発酵、或いはいわゆる「ぼかし肥料」の製造方法として、米糠、油粕、大豆粕を用いる方法など、様々な経路でアミノ酸は得られます。

植物から得られるエキスや微生物の発酵を利用した場合は、オーキシンやサイトカイニンなどの天然の植物ホルモンや植物に対する生理活性物質が含まれていると言われています。これらの物質が「根量をアップする」、「結実を促進する」「健全な植物体を作る」など、以前では伝承のなかで知られてきた事例に結びついているのかも知れません。近年、様々な分析技術の進歩により、これらのメカニズムが解き明かされてきました。

4. 微量ミネラル、ビタミンなど
微量要素の一部は普通肥料の公定規格において肥料として取り扱われていますが、モリブデン、銅、亜鉛、マンガン、鉄、ホウ素、塩素などの微量成分は作物の生体内の生理活性に常に強く関わっており、これらが不足しても過剰になっても生育に影響を及ぼしますので、バイオスティミュラントとして取り扱っても良いと思います。
微量要素はもともと土壌中に存在しますので、特段施用する必要はないという考えもありますが、近年では土壌分析にもとづいて積極的に施用する場面も増えてきています。
水耕栽培などの土を使わない農法においては、微量要素の補給のコントロールは必須になりますので、化学合成された肥料資材で管理されます。
微量要素は敷き藁や堆肥、動植物由来資材の中にも含まれています。
天然由来資源を農業に積極的に取り入れることは、土壌(岩石)と生物の間で常に循環しているミネラル(微量要素)を上手に利用する方法そのものであると言えます。
また、微量要素の必要性は植物を取り巻く微生物にも欠かせないものです。微生物は様々なミネラルを取り込み、その体内で物質の合成や代謝を行っています。微量要素やビタミン類は、合成・代謝に必要なたんぱく質(酵素)の構成材料であり、時としてこれをサポートする物質です。
植物は常に周りの環境と一体の相互関係の中で生きており、全体でひとつの生命であるかのようにふるまっています。

5. 微生物資材
植物の根は単に水と肥料を吸収する器官ではありません。実際には、根の周りに生息する様々な微生物との相互作用により植物の健全性を維持しています。
私たち人間の健康に関わる腸内細菌の集団(腸内フローラ)が存在するように、植物の根には共生する土壌微生物が深く係わっています。この共生関係全体を指して「根圏」と呼んでいます。
根圏に生息する微生物の中には、植物の生育を促進するものがあります。この関係性を農業資材としてうまく利用して、植物を健全に栽培する技術が近年普及しています。これらの微生物が植物の生育を促進するメカニズムはいくつかありますので、まず代表的な作用をご紹介しましょう。

① 有害微生物の抑制
土壌微生物たちは常に栄養分をめぐってその生息域の取り合いを行っています。ある微生物が増殖することで、有害微生物の増殖が抑制されることを拮抗作用と呼んでいます。
また、微生物の中には有害微生物に対する抗菌物質を生成するものや、有害微生物に直接取り付いて溶かしてしまう強者もいるようです。ある種のトリコデルマ菌が有害微生物の細胞壁をセルラーゼという酵素で溶かし、細胞を崩壊してしまう事例は学術的に確認されています。
トリコデルマ菌の菌糸が病原菌の菌糸に寄生
トリコデルマ菌の菌糸が病原菌の菌糸に寄生
② 土壌有機物の分解
根粒菌はマメ科の根部に共生し、空中窒素を固定した後に肥料成分として植物に与えています。その代わりに根粒菌は植物から同化産物である糖分をもらっており、ギブアンドテイクの見事な関係が成立しています。アーバスキュラー菌根菌は土壌中の固定化されたリン酸を植物が吸収可能な形態に変換して与えています。

③ 植物ホルモンの生成
ある種の根圏微生物はオーキシン、ジベレリン、アブシジン酸などの植物ホルモンを生成していると考えられています。この植物ホルモンが植物の生長にどのように関与しているのか、まだ不明部分は多いそうですが、微生物が植物の生長そのものを制御しているとは実に興味深い話です。
主な有用土壌微生物を以下に示します。

・アーバスキュラー菌根菌(VA菌根菌)
植物と共生する菌類。植物にはリン酸や窒素を供給します。植物からは光合成で作られた糖を受け取っています。菌根菌と共生する植物は成長が促進されます。
・根粒菌
マメ科植物の根に根粒を形成し、大気中から取り込んだ窒素をアンモニア態窒素に変換する土壌微生物。植物からは光合成産物が供給されます。
・バチルス(納豆菌など)
堆肥づくりに納豆菌を使用することにより、機能性のある堆肥を作ることができます。植物ホルモンであるサイトカイニンやビタミンを生成することが知られています。
・酵母菌
植物ホルモンであるオーキシンを生成し、花を大きくします。根の周辺で酵母菌が死ぬと、菌体から、アミノ酸、ミネラル、核酸、植物ホルモン、ビタミンなどの生理活性物質が放出されます。植物はこれらを容易に吸収することができると言われています。
・トリコデルマ菌
植物の根圏に共生できるカビの仲間です。幅広い種類が存在しますが、農業用資材で利用されているものには、VA菌根菌同様、植物のリン酸や鉄の吸収を助けているものもいます。土壌微生物に対する拮抗作用を利用して植物の健全化資材として利用されています。
・放線菌
抗生物質を出して糸状菌の菌糸を溶かし、伸長を抑制します。フザリウム菌やピシウム菌などの土壌病原菌の細胞壁(キチン質)を溶菌し発病を抑制します。カニガラはキチン質を豊富に含むので、カニガラを土壌に施用することで放線菌を増やすことが可能です。
・光合成細菌
水田に生息する嫌気性の微生物です。光合成を行うユニークな細菌で、アミノ酸やビタミン、酢酸物質を生成します。紅色硫黄細菌は、光合成に硫化水素を使うので、硫化水素による根の障害予防に期待が持たれます。

有用微生物を農業場面に利用するときの最大の問題は、製品の品質安定です。
菌濃度の規格化、冷蔵保存の問題など、課題は多数ありますが、微生物の幅広い効果に触れるにつけ生物が持つ力の豊かさに驚かされます。



6. 植物機能刺激成分(植物エキスなど)
植物機能刺激成分というグループ分けは、海藻もアミノ酸資材もこれにあたるので重複をしていますが、近年の植物生理学や工業生産技術の進歩により、新たなバイオスティミュラントの流れが生まれてきていますので、あえて別グループとして取り上げました。
植物エキスはもともと、植物が持っている栄養成分を利用する場合や、植物が身を守るための特定の成分を、農家が伝承的に活用していたものと考えます。その方法は、水抽出、アルコール抽出、煮沸、発酵などによるものです。植物の生命力をまるごと利用するという発想から始まった技術であると思います。
一方では近年の技術の進歩により、そのエキスの中の機能的な成分だけを取り出し、濃縮した資材も増えてきています。
植物生理学や分子生物学の進歩により、植物の内生サイトカイニンやオーキシンの合成につかさどる生化学経路や酵素に関わる遺伝子を刺激する天然物などの解明もさかんに行われるようになりました。中には乾燥や低日照、塩害などの環境ストレスに耐性を付与する植物エキスなども発見、開発されており、将来の人口爆発と地球温暖化による食糧不足に対抗するための技術革新になるかもしれません。

以上、バイオスティミュラント資材のグループ分けにチャレンジしてみました。
バイオスティミュラントの明確な定義がない中で、体系的に分類をすること自体に相当な無理があるとは思いますが、今後新しいグループなども生まれ、それぞれの資材が農業生産に有益なものとなることを望みます。

次回はバイオスティミュラントとはどうしても切り離せない、植物生理学との関係について説明を加えていきます。

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※2017年11月8日現在の情報です。製品に関する最新情報は「製品ページ」でご確認ください。