アリスタ通信 新しい農業と「バイオスティミュラント」の必要性について(4)
 
 
新しい農業と「バイオスティミュラント」の必要性について(4)
- 光合成について考える -
 
アリスタ ライフサイエンス(株)
プロダクトマネージャー(バイオスティミュラント担当) 須藤 修

前号では、代表的なバイオスティミュラント資材について説明しました。今回は普段植物生理学にあまり接点のない方にとっては懐かしい話になります。植物が行う最も重要な生命反応である「光合成」にスポットを当てます。

植物は複雑な生化学反応の組み合わせによってその生命を維持しています。ところが既に述べてきたように、植物をとりまく様々な環境ストレスが植物の生理機能を阻害しています。とても興味深い点はどんなストレスであっても最終的には光合成の活動を阻害するようになります。正常な光合成ができなくなると、植物は萎れたり、小型化したり、最悪の場合には枯死に至ってしまいます。光合成反応をスムーズ行なうことが、まずは植物の生理を最適化することの第一歩になります。

光合成とは何か?
そのためには、今一度「光合成」とは何かを復習するする必要があります。「光合成」は小中学校では「植物が光によってデンプンなどを作る働き」として習います。高校では、「植物が光によって水を分解して酸素を発生し、二酸化炭素を有機物に固定する反応」として捉えられています。また、光合成細菌と呼ばれる微生物たちは、水を使うことなく(硫化水素を使用)光合成を行いますので、より正確に表現すると「光によって環境中の物質から還元力を取り出し、その還元力とエネルギーによって二酸化炭素を有機物に固定する反応」ということができます。合成された炭水化物(ショ糖やデンプン)は光エネルギーの貯蔵物質であり、最終的には「呼吸」という光合成とは逆の反応(酸化反応)によってこのエネルギーを利用します。

光合成の反応は幾重にも複雑な化学反応の連続ですが、その収支を表した反応式は次のとおりです。

6CO2(二酸化炭素) + 12H2O(水) → C6H12O6(ブドウ糖) + 6H2O(水) + 6O2(酸素)

光合成の反応は、実際の農業場面ではどのように関わっているのでしょうか。

植物に水をやらないと枯れてしまうことは、おそらく子供でも知っています。しかし植物はなぜ枯れるのでしょうか。いろいろな答えが返ってきます。細胞を支える水の圧力がなくなるからでしょうか?植物体内の液体の流れが滞って、肥料の吸収や同化産物の輸送ができなくなるからでしょうか?まさか、植物の喉が渇くからではないはずですが。しかし、前述の反応式をよく見てください。水が介在して初めて光合成は正常に反応するのです。
つまり水不足になれば光のエネルギーを使ってブドウ糖やでんぷんを合成すること自体が抑制されてしまいます。実際には植物は常にその細胞内に水を蓄えていますので、水不足になったから直ぐに光合成に悪影響が出るわけではありません。しかし極端な水不足が続けばいくら日当たりの良い場所で育っていても正常な光合成は継続できなくなるのです。

光合成のメカニズム
光合成が行なわれる場所や、二酸化炭素と水をどこから取り込んでいるのかを説明します。まず光合成は葉緑体という組織の中で行なわれていますが、グラナという器官の膜(チラコイド膜)上と、グラナの外側(ストロマと呼びます)で2種類の反応が起こっています。
二酸化炭素は、植物の葉に存在する気孔という器官から取り込まれます。水は根を通じて得られる水分が活用されます。光合成も化学反応なので、一般的には低温よりも高温の方が活発に反応する傾向があります(極端な高温は逆に光合成を阻害します)
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光合成は2つ化学工場の連携作業
光合成は2つの工場が連携して仕事をしている化学工場のような振る舞いをしています。
1つめの工場を「光化学反応」(こうかがくはんのう)と呼びます。チラコイド膜上で起こっている化学反応です。膜上に存在するクロロフィル(葉緑素)などの色素が太陽の光をキャッチし、そのエネルギーで水分子の酸素を引き剥がしてATPやNADPHというエネルギーの運び屋を作る工程です。
2つ目の工場は、光化学反応で得られたエネルギーを利用し、二酸化炭素からブドウ糖を合成する工程で、これを「カルビン回路」と呼んでいます。カルビン回路はストロマ内で起こります。
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植物から放出する酸素は、最初の工程である「光化学反応」で水分子から引き剥がされた酸素であり、この工程では全く役に立たない廃棄物です。この廃棄物によって我々人間を含む動物たちは繁栄を続けているわけです。

植物がもつジレンマ「光阻害」
カルビン回路の反応スピードは温度や二酸化炭素の濃度によって変化します。ところが光化学反応では、太陽の光がある限りはクロロフィルが光エネルギーを変換し続けます。土壌の乾燥や砂漠化による塩類障害で十分な水が供給されなくなると、植物はいち早く水を確保するために気孔を閉鎖します。その結果、二酸化炭素を十分に得ることが難しくなります。しかし太陽は相変わらず強い光を降り注ぎますので、結果的に光化学反応とカルビン回路の仕事量のバランスが悪くなってきます。これにより余剰な光エネルギーが活性酸素(スーパーオキシド、過酸化水素など)となり、植物の細胞にダメージを与えるようになります。
このように二酸化炭素の取り込みに関しては、植物は大きなジレンマを抱えています。気孔は二酸化炭素の取り入れ口であると同時に水分の放出口(蒸散口)でもあり、本来自らを護るために行った行為が結果的には二酸化炭素の取り込みをストップしてしまうことは実に皮肉な話です。気孔を閉鎖する条件は他にもあります。たとえば風通しが良すぎて蒸散が過剰になる場合にも植物は気孔を閉じます。その結果二酸化炭素の取り込みは抑制され、有害な活性酸素が発生します。

ブドウ糖製造工場「カルビン回路」
りんごの栽培を例にあげると、葉で合成された糖が転流により果実へ送られますが、大玉で甘いりんごを作るためには、正しい光合成が行われることが必須です。気孔から取り込まれた二酸化炭素は「ルビスコ」という酵素によって異なる化合物(ホスグリセリン酸)に変換されます。その後様々な化学反応を経てブドウ糖に変化していきますが、ここでも色々な酵素によって化学反応が行われています。

植物が窒素や燐を必要とするのは、これらの酵素たんぱく質の材料とするためです。これらの酵素の生産が滞れば光合成に悪い影響が出るので、いかに肥料の供給が重要であるか理解できます。

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光合成を活性化するバイオスティミュラント

バイオスティミュラントが植物に有益な効果を発揮する時に、光合成の反応にどう関わっているのでしょうか。いくつかの例を以下に集めてみました。
ペンタガーデン(コスモトレードアンドサービス)
ペンタガーデン(コスモトレードアンドサービス)

5-アミノレブリン酸(ALA)は天然に存在するアミノ酸です。この物質はクロロフィル(葉緑素)の前駆物質であることは既に分かっています。適正濃度のALAを植物に葉面散布することによって、光合成を促進するという研究結果があります。光合成が促進できれば同化産物も増加するので、増収や栽培期間の短縮も期待できます。ALAは光化学反応のステージでクロロフィルの生産に関与し、有益な作用を与えているのであろうと考えられています。

ハーモザイム(アリスタ ライフサイエンス)
植物ホルモンのひとつであるサイトカイニンは、葉の老化に伴うクロロフィルの分解を抑制することが分かっています。一方、とうもろこしの抽出物質は、植物の内生サイトカイニンを合成する遺伝子を刺激し、内生サイトカイニンを増やす効果があるという研究報告があります。とうもろこし抽出物などの植物エキスを散布することによって、光合成のはたらきを安定化することが期待できます。
ハーモザイム(アリスタ ライフサイエンス)

海藻資材に存在するある種のアミノ酸や多糖類は植物体内の浸透圧を正常な状態に保つ役目を持っています。
海藻資材を利用することによって、適切な水分の供給をサポートし、高温や乾燥による水ストレスに対抗できる健全な植物を得られることが分かってきました。乾燥ストレスによる気孔の閉鎖を予防するひとつの方法として、海藻資材の利用は有益です。
BM START(アリスタ ライフサイエンス(海外製品))
BM START
(アリスタ ライフサイエンス(海外製品))

アミノ酸の葉面散布は、酵素たんぱく質や核酸のもととなる材料を直接供給するひとつの手法であると考えます。光合成やさまざまな二次代謝を行なうにあたって有用です。
この他にも光合成をスムーズにするためにはいろいろなアプローチ手法があります。バイオスティミュラント資材とは異なる方法ですが、栽培施設内の二酸化炭素濃度を高める方法は高収量を目指す施設園芸では各地で採用されています。遺伝子組み換え技術により気孔の開口量をアップして過剰の二酸化炭素を吸収させる技術も研究されています。
二酸化炭素を過剰に取り込むことができれば、糖類の合成量をアップすることができ、増収や栽培期間の短縮が期待できます。
光、二酸化炭素、温度、水が科学的に管理された先進的な施設栽培
光、二酸化炭素、温度、水が科学的に
管理された先進的な施設栽培
光合成のどのステージに何がポジティブに作用しているのか、この点を理解することがバイオスティミュラントを使いこなすための第一歩ではないでしょうか。「ただ漫然と、経験的に良いから使い続けている」では科学的ではありません。何よりも経済的損失にも繋がってしまいます。植物の生理活動を理解した上で、バイオスティミュラントとはうまく付き合っていきたいものです。



■引用
ホームページ 「光合成の森」 早稲田大学教育学部 園池公毅教授
「植物の体の中では何が起こっているのか」 横浜市立大学 嶋田幸久教授


※2018年2月14日現在の情報です。製品に関する最新情報は「製品ページ」でご確認ください。