アリスタ通信 新しい農業と「バイオスティミュラント」の必要性について(5)- 地球温暖化とリンゴの着色の関係 -
 
 
新しい農業と「バイオスティミュラント」の必要性について(5)
-地球温暖化とリンゴの着色の関係-
 
アリスタ ライフサイエンス(株)
プロダクトマネージャー(バイオスティミュラント担当) 須藤 修


19世紀より始まった科学的な気温の観測記録をたどっていくと、この100年間で地球の平均気温は0.74℃上昇しているそうです。地球温暖化の原因については、自然由来のものなのか人為的なものなのか、未だ議論は分かれているそうです。しかし日本においても、この数年間に気温は上昇傾向にあることは疑う余地の無い事実です。
新しい農業と「バイオスティミュラント」の必要性について(5)

農産物栽培適地は今後北上していく

農林水産省は平成29年に「地球温暖化影響調査レポート」を更新しました。この中で、今後の平均気温の上昇を2030年代に1℃上昇、2060年代には3℃上昇と仮定し、わが国の農業生産に与える影響をシミュレーションしています。これによると、ある地域では高温のために農作物の減収のリスクがあること、さらにこれに対抗するために農産物の栽培適地が北へ移動するという内容です。例えば水稲の栽培適地は2060年代には北海道に集中するであろうというシミュレーションがあります。果樹においても同様のことが述べられており、リンゴの主要産地も北海道あたりの緯度になるとのことです。既存産地はより標高の高い地域への栽培圃場の移動を余儀なくされるかもしれません。

リンゴに色がのらない
既に長野県のリンゴ産地では、秋口になっても気温が下がらないため、リンゴの着色が悪く、本来の品質を維持できなくなるという危惧がもたれています。リンゴの種類は、夏の終わりごろから収穫が可能な早生品種から、11月頃に収穫ができる晩生品種まで様々な遺伝形質をもった多様な品種に細分化しています。その中でも「つがる」に代表される早生品種は、収穫時期の気温が高く、着色不良のリスクとは常に隣り合わせにあります。リンゴは秋の低温に遭遇すると一気に着色が進み、リンゴらしい美しい赤色を呈するわけですが、今後温暖化が進むことにより、この現象は早生品種だけの問題ではなくなるかもしれません。

そもそもリンゴはどうして赤くなるのか?
リンゴの着色不良を考えていく上で、そもそもリンゴはどうして赤くなるのかを知っておく必要があります。この問題を解くためには、今回も「光合成」の話に触れなければなりません。少し面倒な話ですが、前号までに語った話を少し繰り返します。とても乱暴な説明ですが、光合成は光をエネルギーに変換する第1工場(光化学反応)と、第1工場で得られたエネルギーを原動力に二酸化炭素を多段階の炭素代謝を経て糖に変換する第2工場(カルビン回路)から成り立ちます。

新しい農業と「バイオスティミュラント」の必要性について(5)
光合成も化学反応の1つですから、光の強さ、温度、二酸化炭素濃度の各条件で反応スピードは左右されています(光合成の限定要因)。暑い夏が終わり、秋風が吹く頃になると気温は下がってくるので、カルビン回路のスピードは遅くなり、二酸化炭素の同化能力は相対的に劣っていきます。ところがこの時期の太陽光はまだかなり強く、光化学反応でクロロフィルが受け取った光エネルギーはせっせと水を分解し、使いみちのない余剰なエネルギーを作り続けます。この余剰エネルギーが原因で毒性の強い活性酸素が発生します。活性酸素は植物の光合成装置そのものを破壊しかねないやっかいな代物です(光阻害)。

この問題を軽減するためにリンゴは過剰な光から細胞を保護するためにアントシアニンという赤い色素を誘導します。アントシアニンは日傘のように生態組織を保護する役目を持っているわけですが、この一連の現象がリンゴが赤く色づく現象であると言われています。

新しい農業と「バイオスティミュラント」の必要性について(5)

温暖化でリンゴが色づかない訳
温暖化により秋の気温が下がらないと何が起こるのでしょう。カルビン回路のスピード低下がなくなり、二酸化炭素の同化はフル回転で働きます。その結果、
①光化学反応で生産されたエネルギーは過不足無くカルビン回路の原動力となりますので、余剰エネルギーの発生はない。
②余剰エネルギーがなくなれば悪玉「活性酸素」も発生しない。
③活性酸素がなければ正義の味方「アントシアニン」の出番もなくなる。
これが、温暖化の秋に起こっている現象です。
温暖化でリンゴが色づかない訳

決め手は光化学反応とカルビン回路のバランス
ここまでの話をまとめると、光化学反応>カルビン回路というアンバランスな状態ができあがった時にリンゴは赤くなると考えて良さそうです。収穫前のリンゴの産地に足を運ぶと、地面に銀色や白色の反射シートが敷き詰められています。リンゴの下側半分は光に当たりにくいので、地面方向から反射光を与えることで、まんべんなく色づいたリンゴに仕上げる技法です。この反射シートのおかげで温暖化になってもできるだけ強い光を当てて着色をサポートしているわけです。つまり、人為的に光化学反応>カルビン回路のアンバランス状態を作ってアントシアニン誘導をしていると考えられます。
決め手は光化学反応とカルビン回路のバランス

もうひとつの着色方法
反射シートは人為的に光化学反応を大きくして2つの反応系のバランスを崩したものです。では、人為的にカルビン回路の仕事量を小さくしてやる方法は無いものでしょうか?二酸化炭素濃度を仮に低くすることができれば、カルビン回路のスピードは制限されてきますが、これはあまり現実的ではありません。
たとえばカルビン回路に携わっている酵素の働きを抑制する手はどうでしょうか?これらの酵素は大抵窒素から構成されるたんぱく質です。リンゴ栽培の後半はできるだけ窒素供給を切ってやるという考えは、窒素化合物由来の雑味の無いリンゴを仕上げるという意味もあるかも知れませんが、カルビン回路のスピードを抑制し、結果的に余剰エネルギーの発生(=アントシアニンの誘導)を促しているのかもしれません。

葉面散布剤による着色促進
高濃度の亜リン酸や一部の生長抑制物質はカルビン回路の反応を鈍らせ、あたかも秋の低温に遭遇したような状況を作ることができます。この仮説を証明するために、葉面散布資材による着色の促進の可能性の試験が長野県で実施されました。
この結果、亜リン酸と海藻エキスを主成分とするバイオスティミュラント資材の使用により、リンゴの着色度が向上したというデータも得られ始めています。今後より再現性の高い散布プログラムを開発するため、試験反復数を増やして実用化に近づける必要はありますが、反射シートのコスト軽減や作業労力の軽減に寄与できるかもしれません。また反射シートの補完的資材としての意義もあるかもしれません。


最後に、温暖化問題に対抗する技術として忘れてはいけないのが、多くの研究者や農業関係者が育種技術によってストレス耐性品種を追求していることです。これらの多方面の技術を駆使して、来るべき地球温暖化に対抗する解決策を見出す必要があると思います。バイオスティミュラント資材の作用はまだまだ解明されていない部分も多々ありますが、ひとつずつ科学的な解釈を加え検証を続けていく必要があると思います。


※2018年5月11日現在の情報です。製品に関する最新情報は「製品ページ」でご確認ください。