アリスタ通信 新しい農業と「バイオスティミュラント」の必要性について(6)
 
 
新しい農業と「バイオスティミュラント」の必要性について(6)
- トリコデルマと植物の関係性について -
 
アリスタ ライフサイエンス(株)
プロダクトマネージャー(バイオスティミュラント担当) 須藤修

今回は、有用微生物が生物防除以外の作用を植物にもたらしている事例を、文献を中心に調査しました。トリコデルマのユニークな働きと、バイオスティミュラント資材としての価値や今後の農業現場での可能性を有していることに触れていきたいと思います。

生物防除資材として考えられてきた有用微生物「トリコデルマ」

トリコデルマはその強力な拮抗作用と菌寄生性を通じて、土壌中の植物病原体を阻止し、植物病害の軽症化に寄与することは古くから研究されています。作物の健全な生育のためにトリコデルマを農業現場で利用することは決して珍しいことではありません。病原微生物の抑制を目的にして現在、農薬登録を受けているトリコデルマは、Trichoderma atrovirideという種類で、イネのばか苗病や苗立枯病の予防のために種もみの浸漬処理などで用いられています。

本来、トリコデルマは森林土壌など植物遺体の多い環境には非常に多く、枯れ木や朽ち木などにもよく繁茂します。キノコ栽培に置いて、トリコデルマが発生する時のこの菌糸の成長に害を与えます。シイタケ栽培等においては害菌として扱われますが、逆にこの性質を利用して、他のカビによる害を防ぐことにも利用されてきました。トリコデルマは他の菌に直接的に寄生して溶菌をすることもあるし、例えばTrichoderma viride はペプチド系の抗生物質 Alamethicinを分泌することもわかっています(宮崎幸雄 1984)。

   
ある種の微生物が植物病害の発生を軽症化するメカニズムはさまざまですが、いくつかの例を以下に示します。

1) 栄養源や生育場所を病原菌と競合することにより、拮抗的に病原菌を排除する。
2) 病原菌に直接的に寄生し、相手の菌を捕食または溶菌する。
3) 抗生物質などの生理活性物質を産生し、相手菌の増殖を抑える。
4) 病原性のない或いは弱い菌が根の細胞に進入または定着した場合、病原菌の進入、感染が著しく阻止される。
5) サリチル酸、ジャスモン酸、エチレンなどの植物ホルモンを介したシグナル伝達により、全身獲得抵抗性(SAR)を有することで植物がより強い抵抗力を示す。
図1. 糸状菌同士の拮抗
図1.  糸状菌同士の拮抗
(トリコデルマのリゾクトニア菌糸への攻撃と
溶菌作用)(小林達治 1986)



このようにある微生物が植物との相互関係の中で他の微生物の成長を阻害する事例は多くあります。

一方これらの微生物は、生物防除作用だけでなく、植物にポジティブな作用を及ぼしている事例を見ることができます。今後それらの価値は見直され、より多彩な使用目的や方法が提案されてくると考えられます。


植物と「トリコデルマ」の生きていくための関係性

「共生」という形で寄主としての植物と生活をともにしている有用微生物の例として、菌根菌や根粒菌が有名です。しかし、共生まではいかなくとも、2つの生物間の分子的な対話や有益な微生物による植物中の動的な変化は、一般的に行なわれているものと思われます。
ある種のトリコデルマには寄主植物に対する成長促進、栄養や肥料成分の吸収量増加、種子の発芽率や発芽速度の向上、損傷や非生物的ストレスに対する防御のための刺激を行っていることが明らかになってきました(Shoresh et al., 2010)。

トリコデルマは根の細胞間隙にコロニーを形成し、根が分泌する多糖類などを獲得しています。トリコデルマが産生する特定の二次代謝物は高濃度では抗菌活性を持ち、病原微生物の排除に利用されています。しかし、低濃度の場合はオーキシン様活性を示す化合物として作用し、エンドウ、トマト、ナタネにおいて成長制御作用が認められたという報告があります(vinale et al., 2008)。筆者もトリコデルマを野菜類の苗に処理した場合の根の伸長量には本当に驚いた経験があります(写真3)。「栄養吸収を促進」するだけでは地上部は繁茂しても根が伸びるというのはなかなか説明ができません。

調査を進めていると、トリコデルマは植物生長と根の発達を刺激することができるオーキシンを産生している(contreras-Cornejo et al., 2009)ことが分かってきました。

トリコデルマによって作られる二次代謝物質で処理したエンドウマメの幼苗ではオーキシン様の作用が認められた(Vinale et al., 2008)という報告もありました。また、とうもろこし根圏へのT. virensのコロニー形成は光合成速度を上げ、葉へのCO2取り込みを全身的に増加させたそうです(Vargas et al., 2009)。
   
その後の調査からトリコデルマは根の発達、作物収量の増加、二次根の増加、苗重および葉面積を増加させる(Harman, 2000)だけでなく、T. harzianumは複数の植物栄養を可溶化(Altomare et al., 1999)、T. asperellumのきゅうり根でのコロニー形成は植物によるリン(P)および鉄(Fe)の利用効率を高め、乾燥重、シュート長および葉面積を優位に増大させた(Yedidia et al., 2001)というレポートにも出会えました。

非生物的ストレスに及ぼすトリコデルマの有益な効果も広く記録されています。Mastouriら (2010)はトマト種子をT. haruzianumで処理することにより、種子の発芽が加速され、出芽率が上昇し、植物の酸化的損傷からの生理的防御を誘導することで、水、浸透圧、塩分、低温および高温ストレスが改善することを報告しています。



さらなる農業的価値が秘められている「トリコデルマ」

トリコデルマはかつて病原菌に対する拮抗作用や直接的な攻撃による病害の軽減作用に着目されてきました。
現在では全身獲得抵抗性(SAR)、二次代謝物質の受け渡しによる植物の生長促進、各種ホルモンを介した刺激の伝達による非生物的ストレスへの軽減作用も有していることが分かってきました。

植物の世界を擬人化することはあまり科学的な説明として適切ではありませんが、それを覚悟であえて言うなら、単に病気に打ち勝つ機能だけを提供する菌よりも、種々のストレスに対抗し、その上で栄養吸収や根の伸長をサポートしてくれるようなマルチな便利屋の方を植物がチョイス(淘汰)したと考えるのはどうでしょうか。

   
オーキシンを提供し、根の伸長を助け、最終的には自分たちの棲家(根圏域)を広げ、より多くの見返りも得ていることを考えると、トリコデルマの行動が実に人間的に思えてなりません。
写真3. 「トリコデソイル」を処理したイチゴ苗(左)と慣行区のイチゴ苗(右) 根張りの良さに目を見張る!
写真3.  「トリコデソイル」を処理したイチゴ苗(左)と慣行区のイチゴ苗(右) 根張りの良さに目を見張る!


参考文献
Rosa Hermosa et al (2012). Plant-beneficial effects of Trichoderma and of its genes. Microbiology (2012), 158, 17–25 Wikipedia トリコデルマ より
宮崎幸雄(1984)イオノフォア抗生物質の研究と開発 有機合成化学 第42巻第10号 900-911.
小林達治 根の活性と根圏微生物 107(農文協)(1986)
Shoresh, M et al (2010). Induced systemic resistance and plant responses to fungal biocontrol agents. Annu Rev Phytopathol 48, 21–43.
Vargas, W. A et al (2009). Plant-derived sucrose is a key element in the symbiotic association between Trichoderma virens and maize plants. Plant Physiol 151, 792–808.
Vinale, F et al (2008). A novel role for Trichoderma secondary metabolites in the interactions with plants. Physiol Mol Plant Pathol 72, 80–86.
Contreras-Cornejo et al (2009). Trichoderma virens, a plant beneficial fungus, enhances biomass production and promotes lateral root growth through an auxin-dependent mechanism in Arabidopsis. Plant Physiol 149, 1579–1592.
Vargas et al (2009). Plant-derived sucrose is a key element in the symbiotic association between Trichoderma virens and maize plants. Plant Physiol 151, 792–808.
Harman, G. E. (2000). Myths and dogmas of biocontrol-changes in perceptions derived from research on Trichoderma harzianum T-22. Plant Dis 84, 377–393.
Altomare et al (1999). Solubilization of phosphates and micronutrients by the plant-growth- promoting and biocontrol fungus Trichoderma harzianum rifai 1295-22. Appl Environ Microbiol 65, 2926–2933.
Yedidia, I et al (2001). Effect of Trichoderma harzianum on microelement concentrations and increased growth of cucumber plants. Plant Soil 235, 235–242.
Mastouri et al (2010). Seed treatment with Trichoderma harzianum alleviates biotic, abiotic, and physio- logical stresses in germinating seeds and seedlings. Phytopathology 100, 1213–1221.

※2018年8月31日現在の情報です。製品に関する最新情報は「製品ページ」でご確認ください。