アリスタ通信 国際生物防除機構研究会 (IOBC-WPRS) 研究会参加記
 
 
国際生物防除機構研究会 (IOBC-WPRS) 研究会参加記
 
アリスタ ライフサイエンス(株)
プロダクトマネージャー(IPM担当)田中栄嗣


去る9月4日~7日に、ポルトガルの首都であるリスボンから西へ約15kmの町 オエイラスに所在する国立農業・獣医学研究所(INIAV)で開催された、第14回国際生物防除機構研究会(IOBC-WPRS Working Group) 『気候変動と外来種を課題とした地中海地域の温室における害虫防除』  に参加してきました。

リスボンは、ポルトガルの首都で同国最大の都市であり、ヨーロッパの大都市では最も西にある都市になります。世界的にも古い歴史がある都市の一つであり、リスボン市街のあちらこちらに歴史の面影を感じることができます。地中海性気候に属し、冬は穏やかで暖かく、夏は日本に比べ気温・湿度が低く、日本の酷暑から逃れたこの1週間はとても快適な時間を過ごすことができました。また、夏場の降水量はとても少なく、傘を常備する必要がない一方、この時期の雨は、農業生産に携わる方々には貴重かつ恵みの雨になるそうです。

国際生物防除機構研究会 (IOBC-WPRS) 研究会参加記

今回の研究会には、EU加盟国の他に、北アメリカ、オセアニアの国々及びアジア(インド、台湾)からも参加者があり、20カ国、総勢で100名程度の研究機関、民間企業の方々が集いました。特に気温が比較的に高い国々の方々が目に付きました。
日本からは、農研機構西日本農業研究センターの安部主任研究員がポスター発表者として参加されました。安部主任研究員は、戦略的イノベーション創造プログラム(SIP、内閣府)「次世代農林水産業創造技術」のプロジェクトにおいて、タバコカスミカメの保護・強化技術(バンカープランツ、インセクタリープランツ)の研究開発を担当しておられます。また、アリスタ ライフサイエンス㈱ 技術顧問 和田哲夫が 『日本のイチゴ施設栽培におけるIPMの現状』  に関して、発表いたしました。

研究会では、天敵昆虫の効果的利用方法における発表の他、誘引フェロモンや交信撹乱フェロモンを用いたチョウ目防除体系、特に多くの国々で被害が拡大している(トマトキバガ、写真:右)の防除体系に関して、多くの発表と意見が交換されました。
トマトキバガ
タバコカスミカメ
トマトキバガの防除体系として、バンカープラントを含めたタバコカスミカメ(写真:左下)、Macrolophus pygmaeus※1、Dicyphus umbertae※2、Necremnus tutae※3などの天敵利用が報告されました。

また、研究発表として、肥料組成最適化による植物相互作用を応用した減農薬防除体系、タバコカスミカメなどの動物植物食性天敵昆虫※4を放飼した際に植物が作り出す植食者誘導性植物揮発性物質(HIPVs)による忌避効果の可能性、タバコカスミカメとMacrolophus pygmaeus※1の基礎的生態・生活史や繁殖力、イチゴ生産現場での新規カブリダニ Typhlodromips montdorensis効果試験結果などに関して報告がありました。

最終日にタバコカスミカメの普及状況やトマトキバガの薬剤感受性に関して、各国 (南ヨーロッパ、オーストラリア、イスラエル) より意見交換が交わされました。南欧では評価が高く、反対にオランダやイスラエルでの評価はいまいちという印象でした。
食害に関しては、大玉(房トマトを含む)での利用では、経済的被害に至るまでの報告はありませんでした。但し、気温が下がる冬場の利用における評価に関しては、Macrolophus pygmaeus※1 (写真:右)の方が良い評価を受けていた様に感じました。
Macrolophus pygmaeus

※1: Macrolophus pygmaeus カスミカメムシの一種、植物防疫法により日本国内への輸入が規制されている
※2: Dicyphus umbertae カスミカメムシの一種
※3: Necremnus tutae 寄生バチ、ヒメコバチの一種
※4: 動物植物食性天敵昆虫 動物食性及び植物食性両方の性質を持った天敵昆虫

研修3日目には圃場視察が行われ、リスボンから北に50km北上した町 トレシュ・ベドラシュに所在するトマト生産法人2圃場を訪問しました。


トマト生産法人 1
栽培面積: 12ha (鉄骨ビニールハウス、天窓ネット無、建設費14億円程度)
トマト(接木苗)、養液栽培(循環式、培地:ココピートベット、各3~5年交換)、発生主要害虫: トマトキバガ、タバココナジラミ、アザミウマ、ハモグリバエ、防除形態: 生物・交信撹乱フェロモン・化学農薬併用、モベント、メタフルミゾン剤、BT剤など、栽培期間:  年2作(1~6月、7~12月)、加温設備無。
生物農薬は、タバコカスミカメ、定植初期のみイサエアヒメコバチを放飼。
トマトキバガ及びタバココナジラミを経済的被害が出ない程度に抑制できている。タバコカスミカメの導入時期は、モニタリング(捕虫紙・フェロモントラップなど)で確認後。タバコカスミカメの株当り1~10頭程度であり、被害果は確認できなかったが、生長点や側枝などに吸汁痕を確認。Global GAP取得している。
国際生物防除機構研究会 (IOBC-WPRS) 研究会参加記


トマト生産法人 2
栽培面積: 20ha (鉄骨ビニールハウス、天窓ネット無)
トマト(接木苗)、養液栽培(貯雨水使用、循環式、培地:ココピートベット)、発生主要害虫:  トマトキバガ、タバココナジラミ、アザミウマ、ハモグリバエ、防除形態: 生物農薬・誘引フェロモン・化学農薬併用(モベント、メタフルミゾン剤、BT剤など)、栽培期間:  年1作(4~9月)、裏作でズッキーニ、加温設備無。循環型灌水システムを用い、水源は雨水を貯留して利用。栽培期間:  6ヶ月で、600t/ha。
非常に生産効率の高い生産法人である。
国際生物防除機構研究会 (IOBC-WPRS) 研究会参加記


今回の研究会では、ヨーロッパ、南アメリカ、中国など多くの国々でトマトキバガによる被害が拡大していることを認識することができました。また、薬剤感受性低下などの報告もあり、生物的防除形態の構築が急がれていることは事実で、各国の状況が報告され活発な議論が交わされました。

最後に、トマトキバガが日本で確認された報告はありません。但し、中国で確認された報告 (右図、R. Muniappan, IPM IL,2013: Tuta absoluta: the tomato leafminer P.16)  があることから、我々も準備を怠らないことが重要であること感じました。

日本国内において、トマトでの天敵昆虫、微生物農薬を主体としたIPMの普及が遅れている中、タバコカスミカメを実用化し、生物農薬を主体とした防除体系推進の必要性を実感することができました。
国際生物防除機構研究会 (IOBC-WPRS) 研究会参加記

また、タバコカスミカメなどの動物植物食性天敵昆虫を放飼した際に植物が作り出す植食者誘導性植物揮発性物質(HIPVs)による忌避効果の可能性は、間違いなくこれらの生物的防除の付加価値であり、これら生物農薬としての天敵昆虫を適切に管理する技術が確立されれば、作物耐性を向上させる優れたツールであることを学んだ研究会でした。


※2018年11月8日現在の情報です。製品に関する最新情報は「製品ページ」でご確認ください。