アリスタ通信 カブリダニについて考える ~ スワルスキー発売10年を機に ~
 
 
カブリダニについて考える ~ スワルスキー発売10年を機に ~
 
アリスタ ライフサイエンス(株)
フィールドアドバイザー 嶽本 弘之


○ プロローグ: スワルスキーカブリダニとの出会い
今でも、あの時のことを鮮明に覚えている。
そう、2007年の6月、筆者は福岡県農業総合試験場・病害虫部のキュウリハウスにいた。新しい捕食性天敵、スワルスキーカブリダニのアザミウマに対する防除効果  (日本植物防疫協会の委託試験) を評価するために(図1)。
カブリダニについて考える ~ スワルスキー発売10年を機に ~


調査を始めてすぐに、スワルスキーカブリダニの多さに驚いた。放飼の8日後にもかかわらず、餌であるアザミウマが少ない(約0.5頭/葉)にもかかわらず、なんと定着がいいことかと。それまで、イチゴではチリカブリダニとミヤコカブリダニ、ナスではタイリクヒメハナカメムシの実用化試験をおこなってきたが、放飼した直後にこれほど「簡単に」 天敵を確認することはなかった。
すごい天敵資材が登場したものだと興奮した。
その後、促成栽培ナスで定植直後にスワルスキーカブリダニを放飼した試験では、栽培期間を通してアザミウマとコナジラミの密度を低く抑制したばかりでなく、栽培初期のチャノホコリダニによる被害を見事に防いだ。これで、「促成栽培ナスのIPMは出来上がった」 と先走りした。

○ スワルスキーカブリダニの現場への普及: 福岡県の場合
スワルスキーカブリダニは2008年11月に登録され、福岡県では、促成栽培のナス・キュウリで積極的に生産現場への普及が推進された。ところが、促成栽培ナス、キュウリでは冬季の管理温度が低く、年内放飼ではハウス内で越年が難しいことが明らかになった。そこで、促成栽培ナスでは低温に強いタバコカスミカメとスワルスキーカブリダニの併用が、促成キュウリでは3月中下旬のスワルスキーカブリダニの放飼が普及するに至っている。また、糸島地域、佐賀県では唐津地域や伊万里地域などキュウリを年間2回栽培する産地では、半促成作型(1月~2月定植)では3月中下旬に、抑制作型 (7月下旬~8月上旬定植) では定植1~2週間後の放飼が定着している。ただし、抑制作型では栽培初期が高温となり、アザミウマが増えやすいため、定植から放飼までに、選択的薬剤による体系的な防除を徹底する必要がある。


○ 生産現場でのカブリダニの活躍
筆者は、上述したように、スワルスキーカブリダニの登録と現場での普及に試験研究担当者や専技として関わった。その後、しばらく、生産現場から離れていたが、昨年の4月からアリスタ ライフサイエンスのフィールドアドバイザーとして、IPMの普及を推進している。

生産現場に戻って切実に感じるのは、やはり、「カブリダニはIPMの主役」 ということ。ナス、キュウリ、ピーマン、メロンなどではスワルスキーカブリダニが、イチゴではチリカブリダニとミヤコカブリダニが大活躍している。また、多くの果樹類や花き類でも今後、カブリダニが普及する可能性が大きいと実感している。

それでは何故、カブリダニが生産現場で広く受け入れられているのだろうか?
最大の理由は、農薬の影響を比較的受けにくい、つまり併用できる農薬が多いことであろう。天敵利用に抵抗を示す生産者はきまって、「天敵を入れると農薬が使えなくなる」と言う。生産者の心の底には、「農薬だけで何とかしたい」という考えがまだまだ根強い。しかし、現実に目を向けると、ハダニやアザミウマなどの微小害虫が殺虫剤に対して抵抗性を発達させ、殺虫剤だけではこれらの害虫を抑制できない生産者が多い。天敵を入れるべきだが、農薬も手駒としてもっていないと不安でたまらない。そのような葛藤に応えてくれるのがカブリダニではなかろうか。うまく使えばカブリダニは効果が高いことは、多くの生産者が経験している。しかし、生産者の農薬への依存性はdie-hardで、効果が高い殺虫剤が登場すると、化学防除に後戻りする生産者が多い。ところが、しばらくたつと、殺虫剤だけでは防除ができなくなり、カブリダニへ戻ってくる。この行ったり来たりが、今でも、生産現場で繰り返されている。カブリダニ (広く言えば天敵) を核としたIPMは持続的であり、better solutionであることを生産者認識するまでに至っていないのであろう。


○ カブリダニの継続的な利用と普及率の向上のためには
生産者がカブリダニを継続的に利用するには、満足できる効果を経験すること(成功体験)が重要である。しかし、生産現場では、カブリダニの効果が年次や生産者によってバラツクことがしばしば指摘される。同じ条件でカブリダニを放飼したつもりでも、定着が悪く、効果が不十分な場合があるとよく耳にする。だからこそ、効果を左右する要因を明らかにし、その対策を示すことが、カブリダニ利用の維持・向上に不可欠である。そこで、昨年から今年の初めにかけて、イチゴで(18圃場)とキュウリ(11圃場)でカブリダニの展示圃を設置し、カブリダニの有効性を確かめた。その結果、ほぼ全ての圃場で対象害虫(イチゴではハダニ、キュウリではアザミウマ)を生産者が満足するレベルに防除することができた。その過程で、定植後できるだけ早い時期にゼロ放飼し、影響のない農薬を併用する、という鉄則の重要性を再認識した。

ただし、ゼロ放飼を実現するために育苗期や栽培初期での防除体系を具体的に提案すること、農薬(展着剤を含め)の影響に関する最新の情報を正しく伝えることが、課題である。また、展示圃の調査を通じて、上記の鉄則以外にハウス内湿度と灌水方法がカブリダニの効果に大きく影響することに気づいた。
カブリダニは湿度が低いほど、卵のふ化率の低下により増殖が抑制されることはよく知られている。実際に、ハウス内の湿度が高く、頻繁に灌水する圃場では、カブリダニの増殖が速く、ハダニの防除効果が高かった。今後、作物の栽培管理と矛盾しない範囲で、ハウスのサイド開放時間を遅らせ、頻繁に灌水することを提案するつもりである。


○ エピローグ
展示圃を設けて、JAの指導員や普及員と一緒に足しげく調査に行くと、生産者の信頼が時を経つごとに増すし、周辺の生産者も注目する。多くの場合、展示圃の生産者は優秀で発信力も強いので、結果が良ければどんどん宣伝してくれる。そうすると、周辺でカブリダニを使う生産者も増えて、それぞれの経験が共有されるという好循環が生まれる。そして、生産者の満足した顔を見るたびに、スワルスキーカブリダニと出会った時のことを思い出す。

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※2019年7月31日現在の情報です。製品に関する最新情報は「製品ページ」でご確認ください。