アリスタ通信 生産者の声(いちご、スパイデックス)
 
 
<生産者の声> 福岡県八女市 『樋口農園』
樋口 賢治さん


【生産者概要】
福岡県八女市でイチゴと米・麦・大豆を栽培しています。五代続く専業農家です。父親の代よりイチゴ栽培を始めています。

私は、就農してから17年目です。
イチゴの品種は、「あまおう」です。

長期的な事を考えて体に負担がかからないよう立った状態で収穫ができる高設栽培にしています。また、育苗作業等も腰を曲げることなく、立った状態で作業出来る環境にしています。
樋口 賢治さん
樋口 賢治さん
【IPMの実践の歴史】
イチゴのハダニに天敵が導入された初期の16年前からすぐに使い始めました。最初のきっかけは、福岡県の試験場の方から 「上手くいかなかったら化学農薬に切り替えていいから、『スパイデックス(チリカブリダニ)』を使ってみて」と言われたのが始まりです。その時は上手くいきませんでしたが、放飼前のリセット防除をしていなかったり、天敵に長期間影響のある農薬を育苗後期に使用していたなど、今思うと失敗して当たり前でした。また、その頃は天敵に影響が小さいダニ剤もアカリタッチか粘着くんぐらいしかありませんでした。
それから、天敵に影響が小さい新しいダニ剤とともに、新たな天敵のミヤコカブリダニ剤 『スパイカル』 が登場したことは、私の天敵防除においてかなり大きな衝撃でした。これで安定した天敵利用が出来ると思いましたが、以前よりはダニの発生が少なくなったものの、スポット的にダニが発生するなど、そう簡単には行きませんでした。

天敵を使いだして5年目頃から、ハダニのことをもっと知らないといけないと思い、あらゆる本を読んで生態などを調べました。
ハダニの被害がいつも発生する圃場は、親株や苗の時期にも必ずハダニが多く存在しています。結局、一年中イチゴでハダニを飼っているとわかりました。また、育苗期にハダニを怖がって必要以上にダニ剤を散布することで、さらに耐性のついたパワーアップした最強ハダニを作っているのです。その苗を定植した本圃でもさらにダニ剤を散布し、耐性を高めたハダニがそのまま次の作の親株にも広がってしまいます。この悪循環を先ずは断ち切ることが重要です。現在は育苗期には合ピレ系の農薬を散布しないようにしてハダニの土着天敵であるハダニアザミウマの定着を促進し、育苗期のダニ剤を減らして耐性を持ったハダニが増えないようにしています。

そのほか、当時は福岡農総試の研究員だった嶽本さん(現アリスタ フィールドアドバイザー) にワタアブラムシに寄生する天敵コレマンアブラバチ剤 『アフィパール』を教えてもらい、試験的に使って利用してみることにしました。当時アブラムシの天敵は福岡県のイチゴではほとんど使われていませんでした。よって実際の情報が少なかったので、コレマンアブラバチに詳しい先生が筑波の研究所にいらっしゃると聞いて直ぐに連絡をとり、資料を送って頂くなどして勉強しました。

そしてコレマンアブラバチのバンカー法も取り入れるようになりました。こうして天敵を実践しているうちに農業新聞などで私の天敵防除を掲載されるようになり、視察も増えてきました。

あるイチゴ農家さんが視察に来たときにアブラムシ天敵のバンカー法の説明をしていると、「アブラムシは化学農薬で防除できるけん、いらないね。」と言われたことを覚えています。確かに、ハダニに比べてアブラムシは化学農薬で防除しやすいです。


バンカー麦を観察される樋口さん
バンカー麦を観察される樋口さん

しかし、ハダニとアブラムシ両方の天敵を利用すればイチゴの株への化学農薬の散布回数が大幅に減少し、それによって天敵がより定着しやすくなるので、相乗効果で天敵の効果が安定します。これは、16年目の天敵防除をするなかで断言できます。

どの天敵も生き物であり絶対効果があるとは言えません。しかし、効果を高め安定的にすることは出来ます。その手法の一つとして三色の立て札をハウス内に準備し、普段の葉かきなどの手入れ作業中に病害虫がいたら立てるようにしています(ハダニは赤色 アブラムシは黒色 うどんこ病は白色)。
10年前に農業新聞であるトマト農家さんが実施されていたのを読んで、直ぐに真似しました。天敵防除においてこの立て札作戦はかなりいいです。特にハダニやアブラムシにおいて、スポット的に発生した場所に直ぐに立て札をします。そして、一週間後天敵がいるかを確認し、さらに一週間後には害虫が広がっていないことを確認します。天敵がいても、害虫が増加しているなら迅速に補完防除等(レスキュー防除)します。天敵を過信しすぎるのも危険です。この立て札作戦を実践した結果、現在ハダニやアブラムシに関しては完全にコントロールできています。

去年は初めてアザミウマの天敵 『リモニカ』を放飼しました。これまでハダニとアブラムシは安定して抑えることが出来ていましたが、唯一アザミウマだけにはどうしても殺虫剤を散布していましたので、いつかはこれも天敵で防除出来ることを夢見ていました。結果から言いますと、大成功しました。何とリモニカ放飼により、収穫期にアザミウマ剤の散布なしで抑えることができました。ハウス回りの開口部にアザミウマが嫌がる特殊なシートを張って物理的に防除したこともかなり効果があったと思います。

天敵以外にも昨年は土壌改良資材 『トリコデソイル』を試験しました。子苗に対して2000倍に希釈して処理したのですが、無処理に比べてクラウン径などが大きくなり、これまで試した資材よりも効果を実感することが出来ました。今年も定植前の子苗全株に処理しています。

たまに、天敵を放飼したが全然効果がなくて「もう使わないよ」と言われる方がいますが、絶対に間違いです!必ず失敗する原因があります。それをきちんと調べて次に繋げることがIPM成功への第一歩になります。私も最初の数年は失敗してきましたが、必ずその原因を調べるようにしています。

【新たな挑戦】
農家にしかできないことをいつも考えています。そんな中、地元の小学校で食育学習をすることになりました。五年生を対象にお米を栽培していますが、お米の栽培や収穫体験だけならどこでもやっています。これでは面白くない!ということで、校長先生に相談して、お米の栽培から加工さらに販売まで児童に挑戦してもらっています。
また、市の補助事業を利用してあまおうドライフルーツを製造・販売しています。新鮮で美味しいあまおうを利用している商品で、博多駅近くの高級ホテルに直接お取引しており、通販でも人気の商品です。

あまおうドライフルーツを使ったお菓子の通販サイト
https://kokorokarano.jp/products/detail.php?product_id=24094

最近は新規の作物の栽培を始めました。血糖値を気にされる方はだいだいご存じの「キクイモ」です。生で販売するのではなく、乾燥後パウダー状に加工しています。すべての行程がドライフルーツの器具を利用出来ると分かっていましたのでスムーズに進みました。元々、販売や営業等にも関心がありましたので、勉強も兼ねて自分で行っています。商品パッケージはプロの方にお願いしていますが、店舗陳列にもひな壇をつくり見映えを重視しています。販路拡大が一番の目標です。八女市のふるさと納税の返礼品としても出品しています。


【まとめ】
最後になりますが、16年間天敵を利用してきたことで一番思うことは、「天敵の出会いは、人との出会い」です。ここまで順調な天敵防除が出来ているのは、本当に回りの方々に恵まれていると思っています。何か困ったことがあれば、小さなことでも熱心に調べてもらって、たくさんの知識を教えてもらったりしています。全国から視察に来ていただき、地域ならではのお話を聞けたりします。また、農業関係の新聞や雑誌等の記者の方とも知り合うようになり、そこから別の分野の方々に繋がれたりしています。これからも人との出会いを楽しみにしながら、天敵防除に取り組んで行きたいと思います。

 
<生産者の声> 福岡県八女市 『樋口農園』 樋口 賢治さん
 
<生産者の声> 福岡県八女市 『樋口農園』 樋口 賢治さん
 

※2019年11月25日現在の情報です。製品に関する最新情報は「製品ページ」でご確認ください。