アリスタ通信 天敵利用・成功体験を重ねましょう!! 露地ナス部会での取り組み事例から
 
 
天敵利用・成功体験を重ねましょう!!
露地ナス部会での取り組み事例から

~露地ナス栽培・じいちゃん・ばあちゃんがスワルスキーに挑戦して3年~
 
アリスタ ライフサイエンス(株)
フィールドアドバイザー 荒木 均

熊本県、JA上益城 「吉無田高原露地ナス部会」 では、以前から夏場の換金作物として露地ナス(6月~11月)が栽培されてきた。一時は部会員49人と県内有数の特産地であったが高齢化や労力不足、病害虫による収量、品質の低下等から現在6戸まで減少。しかも生産者の年齢は殆どが70歳以上となり、部会の存続も危ぶまれている。しかし、生産者の皆さんは部会長はじめ営農意欲がとても高く、JAや普及振興課等関係機関では、これに応えようと、特産地の維持再興をめざし、県育成赤ナス新品種 「ヒゴムラサキ2号」 の導入と天敵スワルスキーカブリダニ (以下スワルスキー) を中心としたIPM技術の実証に取り組んできた。


熊本の露地ナスでもスワルスキーが十分使えることを実証
露地ナス栽培で、スワルスキーが使えるようになったことで、コナジラミ類、チャノホコリダニ、とりわけアザミウマ類の防除効果を期待し、平成29年に上益城普及振興課や関係機関合同により部会長の圃場で実証展示活動を実施。
定期調査は、普及指導員とセット活動で、6月から11月まで2週間おきに実施。また、部会員全員の関心を高めるため現地検討会等を重ね、初めて見るスワルスキーに 「こん、虫がスリップスを食べるとたいな」 とルーペを押し当て、目を丸くしながら観察されていた。 
1年目の結果は、下図のとおりで、実証区はアザミウマ類が最大で0.6頭/葉、対照区は40頭/葉と、露地作でも天敵利用で殆ど防除することができ、しかも農薬の散布回数も1/3程度まで減少するなどの成果をあげることができた。普及指導員から、12月の実績検討会で報告いただき、翌年には部会ぐるみで取り組むことになった。
天敵利用・成功体験を重ねましょう!! 露地ナス部会での取り組み事例から


2年目・部会員全員でスワルスキー防除効果を実証
1年目の実証成果を受けて、部会長からの提案で全員IPMに取り組むことになった。連作回避のためナス作圃場を毎年変えながら、圃場周りには3尺ソルゴーを、圃場内にはクレオメやマリーゴールドなどの天敵温存植物を植え付け、土着天敵の増える環境づくりに配慮した。
初年と同様、高い防除効果を示し、圃場では、スワルスキーは無論のこと、農薬の散布回数が減ったこともあり、ヒメハナカメムシ、タバコカスミカメ、ヒラタアブ、テントウムシやクサカゲロウなどの土着天敵も観察され現地検討会で確認しあい 「へー」 という声の連発だった。農家や関係機関の皆さんに、アンケート調査を実施。次のような評価とご意見が寄せられた。
~吉無田高原ナス部会アンケート調査結果から~

◎ 生産農家の評価(6戸)
1. スワルスキーの防除効果: 大変効果あり 5戸、 効果あり 1戸
2. スワルスキーは確認できたか: 確認できた 4戸、 わからなかった 2戸
3. 農薬の散布回数は: 大変散布回数が減少 4戸、 散布回数が少し減った 2戸

◎ JAからの意見
7月~9月のアザミウマ類対策として有効。収量・品質も向上し販売額も伸びた。

◎ 普及振興課からの意見

きめ細かなアドバイスで、農薬選定など不安もあったが、生産者も思うような利用ができた。天敵利用の個人間格差が少なくなるよう指導の徹底。


天敵利用でもっとやさしく、楽なナスづくりをめざして
第三のコストともいうべき 「ヘルシーコスト」 を考える

高齢農家にとって慣れているとはいえ、ナス栽培での高畝づくり、マルチ張、支柱立て、整枝誘引、肥培管理、病害虫防除や収穫・出荷など肉体労働中心の農作業には大変なものがある。
病害虫防除でも、指導機関の皆さん含め現地巡回で一口に 「早くこの農薬を散布してください」 と軽々にアドバイスするが、夏場に防除衣を着て汗だくになりながら、腰痛や足・肩痛を我慢しながらの農薬散布はたまったものではない。これらを理由にやめられる農家も多い。
この作業を1回減らすことでも 「健康負担という第3の防除コスト」 につながらないかと考えている。
防除経費について、単純に天敵や化学農薬の購入経費などで防除コストを比較するが、健康に与える影響として「ヘルシーコスト」 といったもの提案したい。高齢農家にとって、農薬散布回数を減らすことで「 1回でも重労働から解放される」 「幾度となく薬散しても死なない害虫へのストレス解消」 が図られれば、天敵利用は初期コストが少し高くても十分な効果があると考えられる。何より健康が一番である。

次の図は、29年には、対照区に設定した農家で、30年には、スワルスキーを利用した結果である。農家圃場のアザミウマと農薬散布回数を比較したものである。29年の慣行防除では、20回の農薬散布回数(月約4回)の防除回数であったものが、スワルスキー+土着天敵の天敵利用防除で農薬散布回数も7回(月約1、2回)と13回も削減でき、アザミウマ幼虫も40頭以上/葉だったものが1頭/葉以下までおさえることができた。また、削減された13回分の化学農薬費を考えれば、トータルコストで見ると、天敵区の方が総防除経費を抑えることになった。
スワルスキー放飼時の初期コストだけを考えず、生産農家の皆さんの健康にも配慮したIPM技術としてとらえてほしい。
天敵利用・成功体験を重ねましょう!! 露地ナス部会での取り組み事例から



4年目も全員で天敵利用防除に取り組む

天敵利用の方法などについて、部会員の皆さんの経験的理解も深められ、3年目の令和元年には、県の補助事業を活用して、全戸で利用。
6月下旬と放飼日がやや遅れたこと、放飼予定日が雨天予想で急遽スワルスキーの短期間の保存方法の研修をしたなど、露地作ならではのトラブルもあったが、順調に今作も終了することができた。
しかし、天敵利用で天敵に強い影響のある農薬が使えないことから、テントウムシダマシ、カメムシ類、カイガラムシなどの害虫防除がやや難しくなっている。
また、青枯病や半身萎凋病などの土壌病害も多く、圃場の選定も基本的な課題となっている。
毎年、12月に温泉旅館で忘年会を兼ねて実績検討会が開催されるが、来年も天敵利用で、楽しく・儲けて・無理がないナスづくりをめざしましょう と意気軒昂な部会員の皆さんです。
天敵利用・成功体験を重ねましょう!! 露地ナス部会での取り組み事例から

※2020年2月18日現在の情報です。製品に関する最新情報は「製品ページ」でご確認ください。