アリスタ通信 海藻エキスの農業利用について
 
 
海藻エキスの農業利用について
 
アリスタ ライフサイエンス(株)
プロダクトマネージャー 須藤 修


古くから海藻エキスは、収量や品質の向上を目的に農業場面で使用されています。近年、私たちはバイオスティミュラントの1つのカテゴリーとして海藻エキスについて改めて注目をしています。
海藻関連製品は様々な企業から販売されていますが、汎用的に取り扱われている割にはその作用や効果が判然としません。各社のカタログやホームページを見る限りでは、その効果は多岐に渡っています。
海藻エキスの農業利用について


◆海藻製品の製品説明に見られる効能の一例
・根量が増える ・味が良くなる
・生育が旺盛になる/樹勢が良くなる ・果実肥大が良い
・光合成能力が高まる ・生理障害の軽減
・品質が良くなる ・病気に対する抵抗力がつく

このような効果は、使用者の実感からすると事実起こっていると考えられますが、これらの効果はどのようなメカニズムで発現されているのでしょうか。様々な文献や製品説明において、論理的に説明している文章に出会えるのはまれなことです。
そこで今回はアリスタ ライフサイエンスが取り扱いをしているフランス産の海藻抽出エキス「GA142」 について考察を加えました。


海藻エキス「GA142」とは?
「GA142」 は、褐藻類のアスコフィラム・ノドサムのエキスから、さらなる濾過プロセスによって得られた 「オリゴサッカリン」 が有効成分の濃縮液です。濾過プロセスによって特定成分の濃縮を行っているところが通常の海藻エキスとは異なります。
海藻エキス「GA142」とは?
バイオスティミュラントならではの最もユニークなポイント
まず 「GA142」 の説明から始めましょう。「GA142」 は処理をする植物の生育ステージによって全く異なる効果が得られます。これがバイオスティミュラントの最もユニークなポイントであり、農薬や肥料と異なる点です。
第1の効果 「Nutrition enhancers」 (栄養強化)
「Nutrition enhancers」 は植物の栄養吸収に関わる生理を活性化し、肥料の使用効率を改善します。これにより、収量増や土壌中の肥料欠乏の軽減効果が期待できます。「GA142」 は植物の栄養吸収や栄養利用に関わる酵素のはたらきを強化しています。
第2の効果 「Fruit setters」 (結実サポート)
「Fruit setters」 は果実の結実を確実にし、果実品質を改善します。野菜類の場合は増収も期待できます。果実中に存在するポリアミンはより均一な果実サイズ、品質的な向上、果実成長の加速を可能にする生理活性因子ですが、開花、結実時期の 「GA142」 の処理によって、ポリアミン濃度が増えることが実証されています。
それぞれの機能や特徴は以下のように整理することができます。
海藻エキスの農業利用について


Nutrition enhancersとしての 「GA142」の利用
作物の根が土壌から栄養成分を摂取するためには、その化学構造が特定の形態である必要があります。有機物に含まれる窒素成分は土壌微生物による分解を経て最終的に硝酸態窒素という無機窒素化合物になり、根が吸収可能な状態となります。硝酸態窒素はマイナスのイオンであり、土壌コロイドへ吸着することはなく、土壌中で移動しやすい化合物です。一方、リン酸の一部は有機物と結合した形で土壌中に存在していたり、リン酸イオンが土壌中のカルシウム、アルミニウム、鉄などのイオンと結合する 「リン酸固定」 という現象のために植物がただちに利用できない形態で存在しています。鉄も土壌中には豊富に存在するのですが、そのほとんどが三価鉄で植物は吸収することができません。植物は根から酸を放出して鉄を溶かしてから吸収したり、イネ科植物の場合はムギネ酸のような鉄をキレートの形で吸収できるようにして対処しています。
土の中に肥料成分があることと、正しくこれらを利用できることは全く別問題であり、定められた肥料の分量を投入することだけでは植物栄養管理は完結していません。栄養成分の吸収力や利用効率を改善するために必要になってくるのが、バイオスティミュラントの役目といっても過言ではありません。

◆Nutrition enhancersとしての「GA142」の効果
植物に吸収された硝酸態窒素はその後植物が生産する酵素による還元的な窒素同化反応で、亜硝酸→アンモニア→アミノ酸へと代謝されていきます。最終的にはタンパク質即ち、様々な生理反応に必要な酵素へと姿を変えます。光合成の反応1つを見ても様々な酵素が関与しています。
「GA142」 の投与により、窒素同化反応に必要な硝酸還元酵素 (硝酸を亜硝酸に還元する酵素) が15倍に増加したという実験データが得られています。これにより窒素同化反応はスムーズに行われ、植物生理機能の向上が期待できます。結果的に葉緑素が増加し、光合成の活性化、生育スピードの加速が期待できるわけです。
また、これまでの検証ではリン酸加水分解酵素の活性が7倍になり、リン酸の利用効率が向上したという結果が得られています。鉄に関しても鉄還元酵素の活性が3倍、また特定の分子だけを選択的に取り入れる二価鉄膜輸送タンパク質 (IRT) の活性が3倍に上がったという結果が得られています。
Nutrition enhancersとしての「GA142」の効果

◆Nutrition enhancersの製品化  「ルーター」
「GA142」 を有効成分とするNutrition enhancersは、「ルーター」 という製品で発売することになりました。前述のとおり、「ルーター」 は植物の栄養吸収を助け、さらに植物体内の栄養利用の効率化を狙ったバイオスティミュラント製品です。特に根からの栄養吸収が盛んに行われる時期は、作物の生育初期です。この時期にしっかりとした植物体(シュート)を形成し、葉緑素を生産する能力を身につけることが、収穫時のバイオマスの量や品質に好影響を及ぼします。様々な作物で 「苗半作」 と言われる通り、生育初期の栄養素の同化システムを最大化してやることで、環境ストレスにも強い植物を作ることにも貢献できます
ルーター
ルーター

ホウレンソウの栽培試験では、「ルーター」の使用により、全体的にLサイズの割合が増えました。
ホウレンソウの栽培試験


また、窒素の利用効率を高めることで、葉緑素の増加が見られ、収穫物の色の変化も確認できました。硝酸還元酵素の活性化をはじめとする窒素同化の効率化は残存硝酸イオンの軽減にも期待が持たれ、苦みやエグ味のない葉物野菜の生産にも貢献できるかもしれません。
 
ホウレンソウの栽培試験



Fruit settersとしての「GA142」の利用
ポリアミンは植物の生育の特定の段階で生成する物質群です。それらは天然の生理活性因子であると言われています。プトレシン、スペルミジン、スペルミンおよびジアミノプロパンなどが代表的なポリアミンです。

Fruit settersとしての「GA142」の効果
フランスの研究チームは、「GA142」の施用で植物のポリアミン濃度の増加を観察しています。海藻エキスの中にはもともとポリアミンは含まれていませんが、「GA142」が植物生理に刺激を与えた結果、ポリアミンが増加します。ボルドー大学のチームは、ぶどうのポリアミン、特にジアミノプロパンの不足が花粉の発芽能力を低下させ、ぶどう果粒の発育不良のリスクを誘発することを実証しました。
ぶどうの結実不良を軽減させるためには、常に一定のレベル以上のポリアミンが必要であり、「GA142」の投与でこれを解決できることを検証しました。
また、リンゴにおいてもポリアミンのレベルが果実の均質性の維持に働いていることが既に検証されています。果樹の場合は、摘果によって収穫数が人為的に制御されているため、直接的な増収効果は表現できませんが、均質でよりサイズの大きな果実の収穫は大きな経営的メリットとなることでしょう。
Fruit settersとしての「GA142」の効果


◆Fruit settersの製品化 「タフプラント」 シリーズ
「タフプラント チャージ」 はポリアミンの増加効果による果実の均質化と葉緑素の増加によるサイズアップを狙った製品です。開花~果実肥大期(肥大完了)までの期間に、繰り返し葉面散布を行ってください。

「タフプラント カラー」 はポリアミン増加効果に加え、亜リン酸による着色促進効果を狙った製品です。使用時期は着色前~着色始期です。特に、温暖化による着色不良の改善に効果的です。

「タフプラント」 シリーズのリレー散布
リンゴの場合は、開花から果実肥大にかけての前半期を「タフプラント チャージ」で、肥大完了期から着色始期の仕上げ処理を 「タフプラント カラー」 で、リレー散布を行うことをお勧めします。

タフプラント チャージ
タフプラント カラー
 
「タフプラント」 シリーズ
 

まとめ

以上、アリスタライフサイエンスの海藻抽出物質 「GA142」 とその関連製品について説明しました。
さらなる高品質への追及をチャレンジされる生産者様には、環境ストレスに負けない作物栽培のサポート資材として是非一度試していただければ幸いです。一言に海藻エキスでくくり、なんとなく植物活力剤として使用するのではなく、海藻由来の資材にはその使用時期や使用方法によって異なる効果が期待できること、アリスタ ライフサイエンスはその特性に合わせたバイオスティミュラント製品を品揃えしていることをご理解いただき、一歩進んだ海藻資材の導入を検討していただければ幸いです。
 
 
※2020年11月9日現在の情報です。製品に関する最新情報は「製品ページ」でご確認ください。