アリスタ通信 施設キュウリの天敵利用における春期の成功ポイント
 
 
施設キュウリの天敵利用における春期の成功ポイント
 
アリスタ ライフサイエンス(株)
業務統括グループ 桃下光敏

関東以西のキュウリ産地では、ミナミキイロアザミウマが媒介するメロン黄化えそウイルス(Melon yellow spot virus (MYSV))による黄化えそ病やタバココナジラミが媒介するウリ類退緑黄化ウイルス(Cucurbit chlorotic yellows virus(CCYV)) による退緑黄化病の発生が非常に大きな問題となっています。これらの昆虫媒介性ウイルス病については媒介虫を「①施設に入れない」「②施設内で増やさない」「③施設から出さない」 の3つが基本の防除対策となっていますが、スワルスキーカブリダニ(商品名:スワルスキー、スワルスキープラスUM) およびリモニカスカブリダニ (商品名:リモニカ) はアザミウマ類の幼虫やコナジラミ類の卵と幼虫を捕食することで②の媒介虫の増殖抑制に貢献します。また増殖を抑制することで栽培終了時の施設外への媒介虫の逃亡も減らしてくれます。天敵カブリダニは虫媒性ウイルス病の防除対策の一つとして各地のキュウリ産地で利用が増えていますが、天敵を利用しているキュウリ生産者の一部には、アザミウマやコナジラミが十分に抑えられない、天敵の効果が実感できない、といった悩みをかかえている方もいらっしゃるようです。

今回の記事では天敵を正しく使いこなして十分な防除効果を得ていただくため、施設キュウリでの利用が多いスワルスキーの春期の利用のポイントについてご紹介し、またリモニカとの併用についてもご紹介したいと思います。なお、本記事の内容は関東以西の加温栽培の施設キュウリを対象としていますのでご了承ください。


1) 天敵の放飼時期について
天敵を導入する上で放飼時期はとても重要な成功要因の一つです。天敵は予防剤であり、その効果を十分に発揮するためには対象害虫が増殖する前に放飼を済ませておく必要がありますが、天敵利用がうまくいっていない事例の中には放飼が適切なタイミングに行われていないことがよくあるようです。促成栽培や半促成栽培のキュウリでは、日照時間が長くなり施設内の温度が上昇する2月から害虫の増殖が早くなります。特に西南暖地や環境制御技術を導入して温度を高めに設定している施設では害虫の増殖時期が早まりますので、天敵もなるべく早いタイミングで導入する必要があります。スワルスキーカブリダニは低温が苦手なことが知られており、その点に配慮して3月中旬以降に放飼している地域もありますが、その頃に天敵を導入すると放飼時にアザミウマやコナジラミが既に増えてしまっている可能性があります(図1)。
天敵の放飼時期について
図1 促成キュウリにおけるスワルスキーの3月下旬導入事例(佐賀県,2011)
12月定植、スワルスキー(SW)は3月25日、3月29日に放飼
3月下旬放飼のタイミングではアザミウマ幼虫が葉当たり約7頭もいた(赤丸で囲った部分)。
レスキュー防除とスワルスキーカブリダニの増加によってアザミウマは減少し、黄化えそ病の発生もほとんどなかったが、本来の黄化えそ病予防の観点からは良い事例とは言えない。
レスキュー防除剤の効果が高ければ害虫と天敵のバランスを改善できるが、レスキュー剤の感受性が低下すると害虫を抑えられなくなる。

暖かくなって害虫が増えてしまってからの天敵導入はレスキュー防除に頼った防除体系になりがちです。この場合、レスキュー防除剤の感受性が低下してくると 「以前より天敵利用がうまくいかないな」 という結果に陥りやすいので、天敵の予防的な効果が十分に発揮されるように導入時期の前倒しをご検討いただきたいと思います。最低夜温を一般的な12~13℃で管理している施設の場合、西南暖地では定植初期もしくは2月中旬までにはスワルスキーカブリダニを導入し、それ以外の地域でも3月上旬までに導入することをお勧めします。最低夜温14℃以上で管理している施設の場合は定植初期からの導入がお勧めです。

図2は宮崎県での2月上旬のスワルスキー導入事例ですが、この時期に導入するとスワルスキーはなかなか増えてくれないものの、害虫の密度も最初から低レベルで推移し、結果として防除効果は安定しました。
本試験は九州南部での試験にはなりますが、九州北部や関東のキュウリ産地で行った試験でも最低夜温が12℃以上に設定された施設であれば3月上旬までの放飼で問題なくスワルスキーが定着することが確認されています。放飼後のスワルスキーカブリダニの増殖が緩慢であっても利用期間を通じて対象害虫を低密度で維持できれば成功と言えますので、これまで3月中旬以降にスワルスキーを導入して防除効果が不安定だった方は放飼時期を早めてみてはいかがでしょうか。導入時期を早めることで天敵の利用期間も長くなり、殺虫剤の散布回数についてもより多く削減できることになります。
アザミウマ類とカブリダニの密度推移
図2 促成キュウリにおけるスワルスキーの2月上旬導入事例(宮崎県,2009)
10月定植、スワルスキーは2月上旬に2回放飼
2月上旬にスワルスキーを放飼した場合、スワルスキーが葉当たり0.5頭を超えるのに2ヶ月以上かかるが、アザミウマはごく低レベルの密度に抑えることが出来ている
また天敵の導入時は作物の大きさも重要です。定植初期の小さい株に放飼したほうが葉当たりの天敵数が多くなりますし、株全体にもすみやかに広がってくれます(図3)。よって天敵はできるだけ栽培初期の植物体がまだ小さい時期に放飼することをお勧めします。なお、促成栽培のキュウリで途中から天敵を導入する場合は、株がある程度大きくなっているので天敵は通常より数を増やして放飼することをお勧めしますが、コスト面から天敵を増やすことが難しい場合は天敵の広がりに時間がかかっても良いようになるべく早い時期に放飼するようにしてください。
作物の大きさと天敵放飼のイメージ
図3 作物の大きさと天敵放飼のイメージ
植物が小さいうちに放飼したほうが(左)、葉当たりのカブリダニ数が多くなり、また株全体に広がるのも早い
なお、リモニカスカブリダニはスワルスキーカブリダニよりも低温に強く、一般的な施設キュウリの管理温度であれば冬季の放飼も問題ありませんので、促成栽培、半促成栽培のいずれにおいても定植初期からの導入をお勧めします。


2) 放飼前の防除について
当社ではスワルスキーカブリダニやリモニカスカブリダニを放飼する前にアザミウマ類とコナジラミ類を徹底防除しておくことを推奨しています(ゼロ放飼)。これは繰り返しになりますが害虫が既に増えている状況で天敵を導入しても十分な効果が得られないためです。特にキュウリのような虫媒性ウイルス病の問題がある作物では導入前の防除がより重要になるのですが、実際の利用現場で事前の防除薬剤を確認してみると、効果があまり高くない薬剤を使用されていることが良くあります。これには 「早春でまだ害虫が少ない時期は効果がそこそこの薬剤で大丈夫」「効果の高い薬剤は作の後半に温存しておきたい」 といった考えがあるようですが、天敵利用は 「最初が肝心」 であり、ゼロ放飼を成立させるためには高い効果を持つ薬剤を出し惜しみしないことが重要です。導入前の防除に中途半端な効果の薬剤を使っていると年によっては害虫の発生数によって天敵の効果が振れてしまうことがあります。特に促成栽培の途中から天敵を導入する場合は、キュウリが大きく成長しているのでしっかり防除しておかないと天敵が全体に広がる前に害虫が増えてしてしまいますので、事前の防除をしっかり行う必要があります。放飼前の防除に使用する薬剤については、効果が高いだけでなく天敵に対して影響が長く残らないことが重要なので、弊社では天敵への影響期間が7~14日のスピノシン系やマクロライド系の薬剤の利用を推奨しています(図4)。天敵に影響が小さい薬剤に関しては天敵導入前の利用を最低限にして、導入後に利用できるよう温存い��だくことをお勧めします。

図4 施設キュウリの天敵放飼前の防除スケジュール例
施設キュウリの天敵放飼前の防除スケジュール例


3) 「スワルスキー」 と 「スワルスキープラスUM」 の使い分け

スワルスキーカブリダニについてはボトルの製品(スワルスキー)とパック型の製品(スワルスキープラスUM)が存在します。スワルスキープラスUMはフック付きの小さなアルミ袋のパックに天敵と餌ダニ、緩衝材が内包されている商品で、このパックは小さな増殖装置であり、カブリダニはパック内で増殖しながら少しずつ作物に出てくる徐放性の製剤となっています。ボトル製剤のほうは広く細かく処理することが出来るので、10a当たり2本を使用すれば早い段階で全ての株にカブリダニが待ち伏せしている状態を作り出すことが出来ます。パック製剤は作物に餌が存在しないときに有効なのですが、10a当たり200パック使用する場合は数株に1パックの設置となり、カブリダニが広がるのに時間がかかるため害虫およびそれが媒介するウイルスが局所的に増えてしまうリスクが高くなります(図5)。施設キュウリで春に導入する際のボトル製剤とパック製剤の使い分けについては、低温で害虫が全く確認されず、且つ予防もしっかり実施されているという条件ではパック製剤の利用をお勧めしていますが、少しでも対象害虫が観察される場合や秋の害虫発生が多かった圃場ではボトル製剤の利用をお勧めします。天敵を発注する際の害虫の発生状況を見てどちらの製剤を使用するか判断いただければと思いますが、害虫の発生について観察が難しい、判断がつかない場合は、もし害虫が発生していても大丈夫なようにボトル製剤の利用をお勧めします。また3月以降の害虫の増加
リスクが高い時期の導入についてもボトル製剤の利用を推奨しています。
「スワルスキー」 と 「スワルスキープラスUM」 の使い分け


4) リモスワセットの利用について
今回は主にスワルスキーの使用方法をメインにご紹介していますが、施設キュウリの天敵としてはリモニカの利用も増えています。リモニカスカブリダニはスワルスキーカブリダニよりも低温環境での定着が良好であり、スワルスキーカブリダニが捕食することが出来ないコナジラミの3~4齢幼虫やアザミウマの2齢幼虫を捕食してくれます(6ページの図を参照)。一方で、チャノホコリダニに対しての防除効果はスワルスキーのほうが優れているようであり、リモニカを利用しているキュウリの圃場でチャノホコリダニがスポット的に発生してしまうということも一部で報告されていました。また導入コストについてもスワルスキーの約2倍となってしまうのも普及の課題となっています。

弊社ではスワルスキーとリモニカを併用することでお互いの弱点を補うことが出来るのではないかと考え、2019年2月からリモスワセットの販売を開始しています。リモスワの防除効果や生産者の反響については前々回のアリスタ通信第44号でご紹介していますので今回は割愛しますが、全国的にも良好な結果が得られています。スワルスキーもしくはリモニカのみの利用で効果に満足いただけなかった場合はリモスワセットの利用を是非ご検討ください。
リモスワセットの利用について

5) 放飼後の防除
天敵がうまく定着していないという生産者に利用状況の聞き取りを行うと、かなりの割合で導入後に天敵に影響のある薬剤が散布されています。特に弊社の農薬影響表で 「○」としている薬剤の使用が散見されるのですが(農薬影響表のページはこちら)、「○」の薬剤には天敵が25~50%減るリスクがあり、天敵が十分に数を増やすまでは使うべきではありません。特に天敵の増殖が緩慢な低温期に使用すると大きな影響につながることがありますので、できるだけ  「◎」の評価の薬剤のみを利用するようにし、「○」の薬剤は4月以降に天敵が十分増えているのを確認してから使用してください。また「○」の薬剤を連用したり、「○」の薬剤同士を混用したりすると天敵への影響がさらに大きくなる可能性があるので注意が必要です。

レスキュー防除の薬剤については天敵への影響が 「◎」の薬剤から効果の高いものを選択して使用することになりますが、同じような薬剤ばかりを使用していると感受性低下のリスクが生じてしまいますので、IRACコードを確認するなどして系統の異なる薬剤をローテーションで使用するようにしてください。なお使用できる薬剤の数が限られますので、抵抗性が生じにくい  「ボタニガード水和剤」や「マイコタール」のような微生物殺虫剤も活用いただければと思います。薬剤だけでなく粘着板 「ホリバー」 を10a当たり200~500枚設置して害虫の成虫を誘殺するといった物理的防除も効果的にご利用いただければと思います。

6) 放飼後の圃場管理
天敵の定着が良くないというキュウリ施設を訪問した際に時折見受けられるのですが、圃場内が乾燥していてキュウリの葉がしおれているような圃場ではカブリダニの定着・増殖が良くない場合があるようです。カブリダニ類の増殖には適度な湿度が必要であり、卵の孵化には70%以上の湿度が必要とされています。ただし、ハウス内全てを高湿度にする必要は無く、産卵場所の葉裏の湿度を高めればよいのですが、過度に乾燥した圃場では蒸散が行われずに表面湿度が下がってしまいます。適度に蒸散が行われるようこまめな水管理を行ってキュウリ自体にも適度な湿度を保つことが天敵の定着および効果安定にもつながります。

また、やはりスワルスキーカブリダニに関しては高めの温度を好むので可能な範囲で施設内の温度設定を少し上げることもご検討いただければと思います。天敵利用のためだけに燃料コストを増やすのは難しいかもしれませんが、暖房機稼働の頻度が上がれば高湿度を好む病害の減少にもつながるといったメリットもありますので、栽培に支障のない範囲でご検討いただければと思います。


7) 最後に
近年、施設キュウリではうどんこ病、褐斑病、べと病のいずれの病害にも耐性を持つ複合耐病性品種の導入が進んでおり、施設キュウリで最も大きい課題であった病害対策が安定しつつあります。複合耐病性品種を導入すれば天敵に影響のある殺菌剤を使用する必要が無くなりますので、天敵を利用しやすい栽培環境となります。また、耐病性品種の導入により殺菌剤の使用回数が大きく減ってきているのに伴って、殺虫剤の散布回数も減らしたいという声も増えており、天敵利用への期待も高まってきています。

防除の作業負担を減らして労力を栽培管理や収穫作業に回すことが出来れば、生産者の皆さんの一番の目標である収量の増加や秀品率の向上につながるものと思います。
まだ天敵を導入していないキュウリ産地においては、複合耐病性品種の導入を機会に天敵の導入についても前向きにご検討いただければ幸いです。

 
※2021年2月15日現在の情報です。製品に関する最新情報は「製品ページ」でご確認ください。