アリスタ通信 バイオスティミュラント 仕組みと効果を知る 前編
 
 
バイオスティミュラント 仕組みと効果を知る 前編
 
アリスタ ライフサイエンス(株)
バイオスティミュラントプロダクトマネージャー 須藤 修

第1回 地球温暖化と植物へのストレス 増産・価値向上に期待高まる(2021年8月4日掲載)
気温変化や日照不足など環境から受けるストレスに対して、植物の耐性を高める資材「バイオスティミュラント」の研究開発や製品化が進んでいる。農産物の高温障害対策などに期待が集まる一方、仕組みや効果の理解が進んでいない現状もある。資材メーカーや研究者で構成する「日本バイオスティミュラント協議会」に基本を解説してもらう。

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気候変動が地球規模で起こり、私たちの社会や生活に大きな影響をもたらしている。農林水産省の報告によると、2019年の平均気温偏差は1898年の統計開始以来の最高を記録した。気温上昇による農産物への影響報告は日本各地から寄せられる。
地面に根を下ろし、劣悪環境から逃げ出すことができない植物は、炎天下や水不足などストレスの中でも生き抜く能力を獲得してきた。とはいえ、極端な気象環境がその能力の限界を超えるとき、農産物では減収や品質劣化に至る。
長雨による日照時間の減少は、葉物野菜などの出荷価格を変動させる大きな要因となっている。水稲では出穂期以降の高温により、白未熟粒や胴割粒を起こす。リンゴやブドウでは着色不良や着色遅延の問題が産地で顕在化し、トマトの着果不良、ミカンの浮き皮などは、多くが環境由来のストレス(非生物的ストレス)によるものだと考えられている。
従来のさまざまな農業技術は、病害虫や雑草管理、肥培管理、育種技術、農機具、栽培施設など、農産物供給の最大化と安定化に貢献してきたが、今や作物のストレス制御という新たな問題解決の必要性に迫られている。
農業の効率を飛躍的に高め、収益アップや品質改善を目標とする「バイオスティミュラント」技術は、世界の食糧問題に限らず、日本の農業でもその応用が期待される注目技術だ。

表. 温暖化による影響を受けた都道府県数
表. 温暖化による影響を受けた都道府県数
(農林水産省「2019年地球温暖化影響調査レポート」から作成)



第2回 農薬・肥料との違いは? “非生物的”ストレスを制御(2021年8月11日掲載)
農業現場では「バイオスティミュラント」はまだ聞き慣れない言葉である。「バイオ」(生物)と「スティミュラント」(刺激を与えるもの)という造語で、直訳すれば「生物刺激資材」といったところである。
農業資材としての定義は諸説あるが、要約すると「植物により良い生理状態をもたらすさまざまな物質や微生物であり、植物やその周辺環境が本来持つ自然な力を活用して、植物の健全さ、ストレスへの耐性、収量と品質、収穫後の状態や貯蔵性について好影響を与えるもの」が一般的である。
農薬は害虫・病気・雑草の防除が中心の農業資材である。一方、バイオスティミュラントは、植物を取り巻く「非生物的ストレス」を緩和させるための資材だ。高温、乾燥、日照不足、塩類障害など、外的な物理的ストレスの対策資材である。農薬は原因生物を殺すことが中心だが、バイオスティミュラントは環境由来のストレスに対抗できる植物の体質改善をサポートする資材である。
また、バイオスティミュラントには栄養効果はない。ただ、水分や土壌ミネラルの吸収を改善し、吸収した栄養素の代謝を改善する効果を持つものもあるので、肥料などとの同時施用は理にかなう使い方かもしれない。
病害虫管理や水・肥培管理を正しく行っても期待通りに植物が育たない、品質が悪いというときは「非生物的ストレス」の緩和に目を向けてみてはいかがだろう。

図. 対策する対象の違い
図. 対策する対象の違い

第3回 自然由来の有用物質 アミノ酸やミネラルなど多種多様(2021年8月18日掲載)
多くの自然由来の有用物質がバイオスティミュラントとして分類されている。その一例を紹介したい。
①腐植物質
土壌中で動植物の遺体が微生物により分解・重合されて生成する高分子有機物。土壌の団粒化を促進し、保肥力を向上する。土壌微生物相を健全化し、根張りを良くする効果がある。

②海藻抽出物
海藻から得られるエキスが農業場面で利用される。多糖類によって土壌水分保持や通気性の改善に期待できる。また植物の生理活性を高める目的で葉面散布資材として用いられる。

③アミノ酸
動植物由来のタンパク質を化学的に分解して得られる。植物はアミノ酸を直接的に吸収することが可能で、弱った植物の回復にも効果的である。糖度のアップや抗ストレス作用が期待でき、浸透圧の維持や葉緑素の合成に関与するものなど様々な種類がある。

④微量ミネラル
植物体内の化学反応を司る酵素の生成にはミネラルは必須だ。中でも鉄は葉緑素の生成や根の伸長に不可欠な元素。カルシウムは細胞を強化し、植物の抵抗力を増す。

⑤微生物資材
トリコデルマ菌などの真菌類は非生物ストレスへの耐性、栄養素の利用効率、器官成長の向上などに効果がある。一部の細菌はPGPR(植物生長促進根圏細菌)として今後利用が期待される。

その他、酵母の細胞壁やカニ殻由来のキチンは、発根を促し免疫的な働きで非生物的ストレスを軽減できる。
さまざまなバイオスティミュラントが、植物の生長ステージや外的ストレスの種類に応じて、肥料や農薬とともに使用され、作物の総合的な保護に役立っている。

植物に有用な糖類やアミノ酸類などを多く含む海藻「アスコフィラムノドサム」
植物に有用な糖類やアミノ酸類などを多く含む海藻「アスコフィラムノドサム」
 
※2021年11月8日現在の情報です。製品に関する最新情報は「製品ページ」でご確認ください。