アリスタ通信 海外ニュース EUおよび米国におけるバイオスティミュラント(BS)資材への考え方、スタンスについて (東京農大生物防除部会での講演サマリー)
 
 
<海外ニュース>
EUおよび米国におけるバイオスティミュラント(BS)資材への考え方、
スタンスについて (東京農大生物防除部会での講演サマリー)
 
東京農業大学 生物防除部会
副会長 和田 哲夫

はじめに
2000年代に入ってから、EU 方面でバイオスティミュラント(以下BS) を肥料の登録の範疇に入れようという動きがあることを知りました。2017年にヨーロッパのBSを扱っている会社の団体であるEBIC(European Biostimulant Industry Council)が、「BS が欧州の肥料法のなかで評価される」 と大きく喜びの声明を出しているのを見て、その意味するところが何かを調べました。その結果、EUでは2019年に植物BSの定義がなされていたことがわかりました。厳密にいえば、欧州の農薬取締法の改訂なのですが、BSは農薬の範疇 (カテゴリー)ではないことが確認されたのです。つまり 「BS 以外のもので、植物の生長に影響を与えるものは農薬となる」 という改訂がなされたのです(EC No.1107/2009 Article 2.1.b.)。BSの定義の内容は、以下の通りでした。

植物BSとは (植物のあるいは根圏での)
●養分の利用効率を向上
●非生物的ストレスへの耐性を向上
●品質・形質の向上
●土壌、根圏での利用困難な養分の取り込みを向上

Plant biostimulant as a product stimulating plant nutrition processes independently of the product’s nutrient content with the sole aim of improving one or more of the following characteristics of the plant or the plant rhizosphere : nutrient use efficiency, tolerance to abiotic stress, quality traits, availability of confined nutrients in soil or rhizosphere. (amendment to Regulation (EC) No. 1107/2009)

その後、肥料法自体もBSについての規定を明確にし、2020年に公表されました。それまで非生物的ストレスを生物的ストレスと比較した研究は多くありませんでした。しかし、非生物的ストレスが生物的ストレスと同程度以上の植物の被害、減収をもたらすことが判明してきたのです。

非生物的ストレスとは
どれも大きなストレスですが、順不同にて列挙します。
●低温
●高温
●低日照
●日焼け(サンバーン)
●多雨
●旱魃
●塩害
●風害
●霜害(フロストダメージ)

まさに近年の日本での災害、あるいは、世界の気象災害が非生物的ストレスと密接に関連していることがわかります。これらの非生物的ストレスによる作物の被害は、病害虫の被害より大きい場合が多いのです。
これらの非生物的ストレスに対して、そのストレスを軽減させる効果があるものが、BSの一つのカテゴリーとなっています。

EU での BS の扱い方
肥料類を機能性と構成成分という二つのカテゴリーマトリックスで規定しています。
機能性カテゴリー(PFC ; Product function category)
1 肥料(有機、無機、液体無機、微量要素剤)
2 石灰質資材
3 土壌改良材(無機と有機)
4 培土
5 脱窒阻害剤(窒素固定阻害剤、ウレアーゼ阻害剤含む)
6 植物バイオスティミュラント(BS):(微生物系BS、非微生物系BS)

組成成分カテゴリー(CMC ; Component material category) 
1 既存の肥料法でカバーされているものおよび新規物質(Virgin material substance)、これまでにEUで許可されていない廃棄物質、畜産副産物、その他REACH(欧州の化学物質管理規制: Registration, Evaluation, Authorization and Restriction of Chemicals)などでEUへの持ち込みがされないものは除く
2 植物そのもの および植物抽出物: キノコと海藻を含む
3 堆肥 
4 作物原料分解物(バイオガスの残滓、好気的、嫌気的分解など)
5 作物原料以外からの分解物(下水スラッジ、家庭ゴミなどは除く)
6 食品工業よりの副産物(糖蜜、蒸留残滓(ワインなどの))
7 微生物 ①乾燥かフリーズドライ処理をされているもの ②培地に有毒物質を産生しない菌。死菌を含む ③菌根菌および根粒菌類
8 植物栄養性高分子(Nutrient polymers)
9 植物栄養を持つ高分子以外の高分子物質
10 派生物質 (製造上のinert ingredientと考えられる)
11 その他副産物

すなわち、機能性カテゴリーの6と成分カテゴリーの2~4、6~9などがBSに該当すると推定されます。実際にEU各国でのどの部門がBSを統括するかについては、2022年には明らかになる予定ですが、各国のこれまでの窓口、あるいは民間の検査機関などが対応窓口になると予想されています。

ヨーロッパでの新肥料法成立の背景
EUにおいて、BSの利用を推進することになるこの新肥料法の背景には、EU が近年推し進めている化学農薬の登録の抹消、削減政策があります。ミツバチに影響のある化学農薬の使用の制限などから始まり土壌残留、毒性問題などで多くの薬剤が禁止になりつつあるなか、食料生産を維持するために化学農薬以外の方法によって生産性を向上させようとする政策であると考えられます。フランス政府を筆頭に微生物製剤、天敵製剤などの生物農薬の利用を病害虫の防除手段において30%以上にするという政策を進めており、BSの利用推進もこれと歩調を合わせているように見受けられます。このため、欧米の化学農薬企業の大手が争ってBS関連事業や生物農薬の会社などへの投資、買収を進めているわけです。

米国EPAとUSDAのBSへの方針
2018年のUSDAの農業改善法: 「BSは種子や植物、根圏に処理される物質や微生物であり、自然の力(process)で養分を効率的に取り込み、非生物的なストレスへの耐性を高め、作物の品質や収量の向上に寄与するものである。」

2019年 USDAのもう一つの見解: 「BSは自然界に存在する物質あるいは合成された同等の物質、または微生物であり、自然のプロセスを刺激し、種々の有益な効果を植物に与える。その方法は物理的、化学的あるいは、生物学的なものである」 ということで、USDAのBSについての認識は農薬とは異なるものであることがわかります。

一方でEPAは、これまで米国の農薬取締法(FIFRA)で登録された物質は農薬であるとしながらも、以下の効能の表示は農薬からは除外されるとしています。2020年末にこの見解を発表し、パブリックコメントを募りました。

農薬としての判定から除外されるラベルの表記例:
1. 作物の栄養不足を軽減、補完、防ぐ
2. 非生物的ストレスへの耐性を高め、改善し、補助する
3. 微生物相を改善、向上、保全する
4. 肥料効果を改善する
5. 肥料を植物が利用できる形にする
6. キレート物質の吸収を高める
7. 作物の活着を促進する
8. 作物の栄養状態を改善させる
9. 同化作用を増加させる
10. 非生物的ストレスへの耐性を高める
11. 塩害耐性を改善する
12. 養分効率を最適化する
13. 肥料焼けから茎葉を守る
14. 作物管理の不備を改善する
15. 倒伏防止
16. 栄養不良を改善する

以上のように、農薬から除外される効能はかなり広範囲なものとなっていますが、その多くが非生物的ストレスに対する効果であることは注目されます。

ヨーロッパ、米国とも安全性の担保については農薬レベルの要求はなく、BSは化学農薬とは一線を画す製品群であるという共通の認識があると考えられます(EUではREACHを援用する予定)。またPGRについては、その表記について例示しています。

日本のBSの現状について
日本では、2019年に日本バイオスティミュラント協議会(Japan Biostimulant Association、JBSA)が設立されました。これはヨーロッパのEBICにならったものです。現在、正会員、賛助会員など含め100 社以上が参加しており各社のBSへの興味の大きさを示すものとなっています。
活動内容としては、BSの規格などの整理、農水省との情報交換、アカデミックな機関との情報共有、技術講演会の開催、機関誌の刊行、また2020年のBSガイドブック第一版の発刊などが主なものとなっております。詳しくは協議会ホームページ  https://www.japanbsa.com を参照ください。今後、学会など共に学際的な交流、助言などをいただけるべく提携を深めていきたいと考えております。

※2021年11月8日現在の情報です。製品に関する最新情報は「製品ページ」でご確認ください。