トマトの病害虫と抵抗性品種と生物防除
 
 
トマトの病害虫と抵抗性品種と生物防除
 
アリスタ ライフサイエンス(株)
技術顧問 和田 哲夫

トマトのウイルス病である黄化葉巻病(以下、英名TYLCVとします。Tomato yellow leaf curl virus)は、主にタバココナジラミが媒介、伝染させます。
青枯病などとならんで、病気から回復させることができにくい怖い病気であり、感染しないように、収穫前、栽培中、収穫後にわたり、十分に耕種的防除や土壌消毒、物理的防除などを行うことがルーティンになっています。
近年は、インフルエンザや、コロナウイルスに効果のある医薬品が開発されてきていますが、農業分野では、なかなかウイルスを攻撃する薬品、農薬は開発できていないようです。バクテリア、つまり細菌についても、似たような状況ではありますが。

日本で、トマトでの天敵利用が進まない理由の一つに、このTYLCVの存在が真っ先に挙げられることはご存じの方も多いと思います。このウイルスを媒介するタバココナジラミは、年間の世代数が多く、殺虫剤への抵抗性を早く得ることができるので、農薬の効果があまりないこともよく知られています。
そこで、サバクツヤコバチ(アリスタの製品名は「エルカード」) という寄生蜂の天敵が登場しました。
この天敵はその名前が示すように南方系です。

この天敵を3~4回、コナジラミのマミー(ミイラと呼ばれるツヤコバチの蛹)の付いた紙製のタグを発生初期にトマトの枝にぶら下げると、出てきた寄生蜂が、コナジラミの幼虫や蛹に産卵して、結果的に蛹の内部を摂食することにより、タバココナジラミの防除になるわけです。

でも、この天敵は、日本のトマトハウスでは、あまり使われていません。一方で、オランダや、スペインでは、よく使われています。なぜでしょうか?
オランダ式の大型トマトハウスでは、使い方を知っているので、使われているところは結構あるのですが、中型以下のハウスではあまり利用されていません。その理由は?
ツヤコバチでは、コナジラミを全滅させることができないので、TYLCVの感染が危惧されるからと考えられています。
スペインでは既に、トマトのTYLCVは「死語」であると、4~5年前にスペインの研究者に言われてショックを覚えました。スペインでは、TYLCVに対して抵抗性を持つ品種が、種苗会社によって10年以上前に開発され、それらをメインに栽培しているため、TYLCVの恐れは激減したというのです。
もちろん、あと数種類くらいの天敵も開発されていますが、日本ではまだ広く使われていないのは、残念なことです。
天敵昆虫以外にも、ボタニガードや、マイコタールという微生物殺虫剤があり、両剤ともコナジラミに効果が高いです(後者は、より湿度が必要です!)。

そんな中、ある日のこと、日本でトマトの種を販売する会社の方から、「日本でもすでに、3~40%はTYLCV抵抗性因子を持っている品種に変わってきていますよ!」 と聞いて吃驚、仰天。

あともう少し、TYLCV抵抗性の品種のシェアが高くなれば、各県の試験場の指導者も、トマトのコナジラミ類の防除にツヤコバチ類や微生物農薬を使うことに、躊躇、逡巡しなくなるなあ などと夢想してしまった一日でした。 (次号に続く)

※2022年2月2日現在の情報です。製品に関する最新情報は「製品ページ」でご確認ください。