アリスタ通信 イチゴ栽培における環境にやさしい持続可能な防除体系を目指して
 
 
イチゴ栽培における環境にやさしい持続可能な防除体系を目指して
 
アリスタ ライフサイエンス(株) 
熊本県フィールドアドバイザー 三原順一

〇 はじめに
熊本県ではイチゴは主要野菜の一つであり、平坦地から中山間地まで各地域で栽培されています。近年、地球温暖化に伴う高温など異常気象の影響で、ハダニやアザミウマなどの害虫が多く発生する傾向にあります。ハダニでは十数年前から天敵が導入され、多くの産地で利用されていますが、アザミウマでは天敵の利用が少ない状況の中で、化学農薬だけで抑えることが難しく、問題となっている地域があります。
そこで今回は、アザミウマ防除対策として天敵での抑制効果を評価しました。
使用した天敵は「ククメリス」(ククメリスカブリダニ)と「リモニカ」(リモニカスカブリダニ)です。併せて、ハダニの天敵として以前から使用されていた「スパスパトリオ」(チリカブリダニ剤 「スパイデックス」3本+ミヤコカブリダニ剤 「スパイカルEX」1本)と、「スパイデックス」(チリカブリダニ)も追加放飼しました。試験は山都町(標高450m程度)の令和3年産イチゴ高設栽培ハウスで実施しました。

〇 試験概要
山都町イチゴ生産者の3ハウス施設(慣行区6a、ククメリス区7a、リモニカ区7a)で試験を実施しました(写真1)。防虫ネットはサイド側、谷部とも目合い2㎝です。天敵放飼前に殺虫剤、殺ダニ剤を散布してゼロ放飼に努めました。
アザミウマの天敵は、「ククメリス」(4本/10a)と「リモニカ」(2本/10a)をそれぞれの区に10月19日に放飼し、ククメリス区のみ2回目(4本/10a)を1月25日に追加放飼しました(写真2)。
ハダニの天敵については全ての区に「スパスパトリオ」(スパイカルEX1本、スパイデックス3本/10a)を10月19日に放飼し、さらにハダニがスポット的に多発生したため、「スパイデックス」(10000頭/10a)を12月7日に追加放飼しました。
調査は、各区30花のアザミウマ数と各区30複葉のハダニ数を約2週間毎に見取り調査し、天敵も同様に調査しました。また粘着板の「ホリバー ブルー」をハウス内とハウス外に設置して約2週間毎にアザミウマ数を調査しました。



○ 試験結果

「ククメリス」は、2月下旬から3月に花のがく片裏側で確認されましたが、「リモニカ」は確認できませんでした(図1、写真3)。
アザミウマは慣行区で11月下旬から確認され始め、1月下旬から増加傾向になり、3月下旬から気温の上昇とともに急激に増加しました。そのため、慣行区は3月下旬から4月に殺虫剤を散布しました。リモニカ区は12月下旬に一時的に若干確認されましたが、その後はほとんどなく、ククメリス区もシーズンを通して確認されませんでした。「リモニカ」、「ククメリス」ともアザミウマの抑制効果は高いと考えられます(図1)。

写真3 2月下旬~3月 がく片裏側で確認されたククメリスカブリダニ
写真3  2月下旬~3月 がく片裏側で確認されたククメリスカブリダニ

「ホリバー」のアザミウマ捕殺数においても、ククメリス区とリモニカ区が同様に少なくなりました。慣行区はシーズンを通して多く、3月の例年にない高温の影響もあってか、3月下旬以降急激に増加しました。ハウス外は、12月中旬以降~3月までほぼ確認されませんでした。若干、時期はズレますが花でのアザミウマ発生数とほぼ同様の傾向になりました(図2)。

 

コナジラミは、各区とも同様に推移し、シーズンを通して確認され、3月中旬以降から急増してスポット的にすす病が発生しました(写真4)。年明け以降、リモニカ区と慣行区はククメリス区より低い密度で推移しましたが、慣行区は3月下旬と4月に殺虫剤を散布したためリモニカ区よりも密度が低下しました (図3)。「リモニカ」によるコナジラミの抑制効果はククメリス区よりは認められたものの慣行区に比べれば十分ではなく、原因としては「リモニカ」の定着数不足などが考えられました。


写真4 3月下旬~4月 発生したオンシツコナジラミ等とすす病
 
ハダニは、当初から確認され、各区で11月下旬に多くなり、特にリモニカ区では急増したため、各区とも殺ダニ剤でレスキュー防除後、12月上旬に「スパイデックス」を追加放飼しました。その後ハダニは、4月上旬の慣行区を除き、確認されませんでした。チリカブリダニは各区ともハダニの増加に伴い11月下旬から12月に確認されました(図4)。
アブラムシは12月下旬頃に一時的に発生したため、殺虫剤をレスキュー散布、その後は低密度で推移しました(データ省略)。
以上のことから、「ククメリス」、「リモニカ」とも同程度にアザミウマの抑制効果が確認されました。
ククメリス区は、リモニカ区が11月のみ1回放飼に対して、11月と1月下旬に2回放飼を実施したことがリモニカ区同様の抑制効果につながった要因の一つと考えられます。
ハダニでは、天敵の「スパスパトリオ」、さらにハダニ多発生時には、影響の少ない殺ダニ剤散布後に「スパイデックス」の追加放飼は、後半までハダニの抑制効果が確認されました。
追加放飼予定の1月下旬頃を基本としながら、ハダニの多発生時には臨機応変にレスキュー防除、その後に「スパイデックス」を放飼する方法で、高い抑制効果が期待できると考えられます。

○ 課題

今回は、天敵を利用してアザミウマを抑えることができましたが、気象条件は毎年大きく変化するため、その状況に応じた対応が必要になってきます。単年度だけの結果では、十分とは言えません。一方、気温の高い平坦地域ではアザミウマの発生密度が高く、春先以降急激な増加に伴い、化学農薬や天敵を利用しても果実への障害で早めに収穫を終了する所も見受けられます。今後も継続して技術向上を図らなければなりません。
また、中山間地域は夏秋野菜の産地であり、コナジラミの発生が多くなる傾向にあります。
イチゴでは直接的なウィルス病は確認されていませんが、すす病症状での光合成能力低下による生育停滞や果実の汚れが懸念されます。
今回「リモニカ」によるコナジラミの抑制効果は十分ではなかったので、化学農薬や天敵だけでなく、他の物理的方法等を含めて再検討する必要があります。

最後に今回の実証試験に際して、御協力頂いた生産者、JA、県普及指導員の皆さんには大変お世話になりました。今後も残された課題解決に向けて、産地や関係機関の皆さんと協力しながら一緒になって、環境にやさしい持続可能な防除体系を目指して技術確立に取り組んでいきたいと考えています。




※2022年9月14日現在の情報です。製品に関する最新情報は「製品ページ」でご確認ください。