アリスタ通信 10年を費やした革新的な技術、白色のチリカブリダニ
 
 
10年を費やした革新的な技術、白色のチリカブリダニ
 
アリスタ ライフサイエンス(株)
IPMプロダクトマネージャー 田中 栄嗣

1967年にハダニの天敵であるチリカブリダニ (製品名:スパイデックス) を利用した害虫管理技術がオランダのKoppert社で開発され、1970年代にはヨーロッパ、アメリカを主体に使用面積が200haに達した。
現在、コナジラミ類やアザミウマ類の天敵であるスワルスキーカブリダニと並び世界で最も利用されている天敵と言える。
近年、アメリカ合衆国カルフォルニアの露地栽培イチゴにおいて、実用化に向けドローンを利用したチリカブリダニの散布試験が行われている (写真1参照)。
また、日本の施設栽培イチゴ圃場においてもハダニ防除の基幹防除剤として利用されており、現在の普及率は60%以上と推測される(弊社算出)。

出典:Koppert

チリカブリダニについて
大きさ
雌成虫約0.5mm、体色は乳白色またはオレンジ色、赤色
卵は約0.2mmの楕円形、乳白色
活動可能温度・湿度
12~30℃・ 50%以上(湿度が十分であれば夏季の利用も可能です)
適温・適湿
20~25℃・ 70%以上(乾燥はさけてください)
産卵限界温度
10~12℃
捕食数
成虫は約30日間生存し、1日当たりハダニ成虫を5頭、または幼虫を20頭、または卵を20個捕食する
捕食範囲
ナミハダニやカンザワハダニなどのテトラニカス属
生涯産卵数
雌1頭当たり約70卵 (日当たり産卵数4~5個)

出典:Koppert
出典:Koppert

2021年1月7日に革新的なチリカブリダニの生産技術 (増殖技術) がイスラエルのBioBee社(Koppert社提携先) から報告された(HortiDaily.com 2022)。同社は、40 年以上に亘りチリカブリダニの大量増殖を行っている天敵およびマルハナバチの生産企業である。

従来のチリカブリダニ生産 (増殖)は、商業供給を考えると不安定であり、安定生産、安定供給が課題であった。そのため、長年に亘りチリカブリダニの安定生産 (増殖)技術開発は、世界の天敵生産企業や研究者の間で試みられていたが、革新的な開発には至らなかった。そんな中、BioBee社の研究開発部門は、10年を費やし生物的害虫管理を目的とした天敵生産技術の分野で革新的な増殖方法を生み出し、画期的かつより生産性や供給安定性の高い生産技術の開発に成功し、2020 年半からBioBee社は、商業規模の生産を開始した。本事業や研究に携わる多くの関係者が驚きを覚えた。
報告の中で、BioBee社の最高経営責任者であるRan Gan El 氏は、「この新しい生産技術は、画期的なイノベーションである」と説明し、「BioBee社の新しい生産技術は、生物農薬業界全体のゲームチェンジャーになる」と付け加えた。

新しい技術で生産されたちチリカブリダニ剤は、従来のチリカブリダニ剤と比べ、多くの特長を持っている。

有効成分である捕食性天敵チリカブリダニの卵を除く全生育ステージ(幼虫、若虫、成虫)が封入されている天敵殺虫剤である。
その他有効成分としてチリカブリダニの“餌”が入っており、餌が入っていない従来剤に比べ、輸送中キャップ付近にチリカブリダニが密集することがなく、チリカブリダニへのストレスやお互いへの接触を最小限に抑えられるため、より安定した品質で届けることが可能になった。
輸送中、有効成分であるチリカブリダニは容器内に入っている“餌”を捕食しているため、高い活性状態で納品される。放飼後間もなく産卵を開始し、定着性や増殖性に優れ、ハダニを効率的に捕食する。
代用餌で増殖された本剤の有効成分であるチリカブリダニの体色は“乳白色”である。納品時には、多くのチリカブリダニの体色は“乳白色”で、圃場に放飼されハダニを捕食すると体色が“オレンジ色”または“赤色”に変化する。体色の変化によって定着と捕食状況を確認することが可能である(写真2参照)

<ハダニ捕食によるチリカブリダニの体色変化>
<ハダニ捕食によるチリカブリダニの体色変化>
(写真2 出典:Koppert)


※2022年11月10日現在の情報です。製品に関する最新情報は「製品ページ」でご確認ください。