メロン害虫の天敵類による防除-秋冬作の場合-
農薬ガイドNo.103/C(2002.11.25) - 発行 アリスタ ライフサイエンス株式会社 筆者:柏尾 具俊
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はじめに

 近年、わが国においてもハダニ類、ワタアブラムシ類、アザミウマ類、コナジラミ類等の施設害虫を対象として天敵昆虫製剤が販売されるようになり、トマトやイチゴ等では、これらの天敵を利用した防除が実際に始まりつつある。
 ここでは、ワタアブラムシに対してコレマンアブラバチやヤマトクサカゲロウ、コナジラミ類に対してオンシツツヤコバチ、ハダニ類に対してチリカブリダニ、ミナミキイロアザミウマに対してタイリクヒメハナカメムシ等の天敵類を利用した総合防除と、天敵類と選択的農薬を組み合わせた総合防除の事例について紹介する。

 天敵類を用いた総合防除

 試験は、ハウス栽培の秋冬作メロン(品種:アールスセイヌ秋冬、定植:1999年9月10日)で実施した。試験区として、天敵類を用いる区(総合1区)、選択的農薬と天敵製剤を組み合わせた区(総合2区)、化学薬剤のみを利用する化学的防除区(化学区)と無防除区を設けた。

(1)ワタアブラムシ

 ワタアブラムシは定植後1~2週間後から発生を認め、その後徐々に増加した(第1図)。総合1区では,ワタアブラムシの発生初期からほぼ1週間ごとにコレマンアブラバチ(アフィパール;1頭/株)を4回放飼した。本種の寄生を受けたマミーは2週間後から見られるようになり、ワタアブラムシは葉当り1~2頭の低密度に抑制された。しかし、一部の株ではワタアブラムシが増加する傾向が見られたので、10月下旬と11月上旬にヤマトクサカゲロウの製剤をスポット放飼した。その後、ワタアブラムシは低密度に抑制された。無防除区ではワタアブラムシは10月上中旬にかけて激発した。そのため、すす病が多発したが、総合区では果実にすす病が発生することはなく実害はなかった。
 総合2区では,ニテンピラム粒剤の施用により9月下旬までワタアブラムシの発生はなかったが、10月上旬に再発が認められたので,この時期からコレマンアブラバチを3回放飼した結果、アセタミプリド水溶剤とピメトロジン水和剤を散布した化学区と同等の高い効果が得られた。

▲第1図 秋冬作メロンにおけるワタアブラムシ個体数の推移

ACo:コレマンアブラバチ1,600頭/10a
CR:ヤマトクサカゲロウ スポット処理(72頭、26頭)
NI:ニテンピラムG 2g/株
AC:アセタミプリドS 8,000倍
PY:ピメトロジンW 3,000倍

(2)シルバーリーフコナジラミ

 試験区では、シルバーリーフコナジラミが定植後まもない時期から発生した(第2図)。総合1区では、オンシツツヤコバチ(エンストリップ;4,000頭/10a)を定植1週間目から4回放飼した結果、10月中旬にかけて増加傾向を示したが、その後は密度が低下し、化学区と同等の高い効果が認められた。ニテンピラム粒剤を定植時に処理した総合2区では、サバクツヤコバチの3回の放飼で高い効果を示した。


▲第2図 秋冬作メロンにおけるシルバーリーフコナジラミ個体数の推移

EF:オンシツツヤコバチ 4,000頭/10a
NI:ニテンピラムG 2g/株
AC:アセタミプリドS 8,000倍
PY:ピメトロジンW 3,000倍

(3)ハダニ類

 ハダニ類に対しては、発生が一部の株で見られた時期からチリカブリダニ(スパイデックス;2,000頭/10a)を2週間間隔で2回放飼した結果、ハダニは収穫時まで低密度に抑制された(第3図、総合1区)。また、総合2区では10a当り4,000頭を発生初期に放飼した結果、1回の放飼で高い効果が認められた。一方、化学区では、フェンピロキシメートフロアブルとビリダベンフロアブルの2回の散布を必要とし、総合区の効果は化学区より優れていた。

 

▲第3図 秋冬作メロンにおけるカンザワハダニ個体数の推移

PP:チリカブリダニ 2,000頭/10a
FF:フェンピロキシメートF 1,000倍
VI:ピリダベンF 1,000倍

(4)ミナミキイロアザミウマ

 総合1区では、ミナミキイロアザミウマに対してタイリクヒメハナカメムシ(タイリク;成虫400頭/10a)を定植後まもない時期に放飼した。その結果、ミナミキイロアザミウマは収穫時の12月中旬まで低密度で推移した(第4図)。総合2区では、粒剤の処理のみによって、高い効果が認められた。
 以上のようにメロンの主要害虫に対してコレマンアブラバチ、チリカブリダニ、オンシツツヤコバチ等の天敵類のみを利用した総合防除は可能と考えられる。しかし、メロンの害虫は種類が多く、すべての害虫を天敵のみで防除使用とすると複数種の天敵を多数回放飼する必要があり、防除経費のことを考えねばならない。定植時にニテンピラム粒剤を処理し、薬剤の効果が消失する栽培中期以降に天敵類を利用する体系の場合は天敵類のみを用いた場合に比べて、天敵の放飼回数と放飼量をかなり削減でき、実用的な体系として期待がもてる。

▲第4図 秋冬作メロンにおけるアザミウマ類の個体数の推移

OS:タイリクヒメハナカメムシ 400頭/10a
NI:ニテンピラムG 2g/株
AC:アセタミプリドS 8,000倍
PY:ピメトロジンW 3,000倍

メロンにおける天敵利用の留意点と今後の問題

(1)発生初期の放飼

 メロンは最低温度が15~18℃、日中は25~30℃の高温条件で栽培される。そのため、メロンでは害虫の増殖速度が早く、いったん発生すると短期間で爆発的に増加する。一方、天敵類は一般に遅効的であり、効果の発現までに一定の日時を要するので、防除効果を確実なものとするには害虫の発生初期からの放飼が基本となる。害虫の発生動向に注意し、早め早めの対応を心がけることが大切である。

(2)作型に応じた利用

 メロンの栽培は地域によって様々であり、春作や夏秋作等の作型の種類も多い。そのため、作型や栽培条件に合わせた適切な使い方が必要である。春作や夏秋作についての試験例についても機会があれば紹介したい。

(3)鱗翅目害虫の対策

 メロンでは、ハスモンヨトウやワタヘリクロノメイガ等の鱗翅目害虫が問題となることもある。これらに対してはBT剤の散布が効果的である。

(4)トマトハモグリバエ

 近年問題となっている新発生害虫のトマトハモグリバエに対しては、イサエアヒメコバチ等の利用について検討を始めたところであり、有効な結果が得られつつあるが、さらに検討が必要である。

おわりに

 「メロンでの天敵利用は困難だよ」と考える人も多いとは思う。また、問題も多いことは否めない。しかし、環境保全や消費者の生鮮野菜に対する安全志向に答える農業が求められる昨今、天敵類の利用への期待は大きい。少しでも天敵類の利用について興味をもたれた方は、是非とも農業試験場や病害虫防除所等の関係機関あるいは天敵販売会社の指導員と一度相談されることをお勧めしたい。すぐには皆さんが満足する使い方ができないかもしれないが、減農薬に通じる第一歩につながるであろう。
(九州沖縄農業研究センター 野菜花き研究部)


▲コレマンアブラバチ成虫に寄生されたにワタアブラムシのマミー


▲ワタアブラムシを捕食中のヤマトクサカゲロウ


▲メロンに吊り下げられたオンシツツヤコバチのマミーカード


▲カンザワハダニを捕食中のチリカブリダニ

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