ガーベラなど花卉類のハダニ類に対する天敵の利用について
農薬ガイドNo.114/A(2008.8.30) - 発行 アリスタ ライフサイエンス株式会社 筆者:宮田 將秀
この号のTOPに戻る

1.はじめに

 多くの花卉類ではハダニ類の被害が問題となる。花卉類は花そのものの他、葉も商品とされる場合が多いため、葉に被害を及ぼすハダニ類は重要な防除対象害虫である。そのため、殺ダニ剤の散布は頻繁に実施せざるをえない状況となり、各種薬剤に対する抵抗性の獲得が深刻になっている。このような中で、野菜のハダニ類に対しては、薬剤と併用する防除手段として天敵カブリダニ類の利用が特にイチゴ栽培で全国的に進んでいる。野菜類で登録されているカブリダニ製剤にはチリカブリダニ(スパイデックス)とミヤコカブリダニ(スパイカル)がある。現在、花卉・観葉植物でもこの2種は登録されているが(施設栽培のみ)、花卉類での防除効果の知見は少なかった。そのため、宮城県農業・園芸総合研究所では、花卉類ので天敵利用の可能性を模索するため、ガーベラのナミハダニを対象に、カブリダニ類のうちミヤコカブリダニの防除効果について実証試験を行なった。
 なお、この2種の特性の違いや使い方ははこれまで本誌でも紹介されてきたが、あらためて簡単に確認する。ハダニ類の捕食能力はチリカブリダニの方がミヤコカブリダニよりも優れるが、チリカブリダニはハダニ類しか捕食できないのに対して、ミヤコカブリダニはハダニ類のほかホコリダニやアザミウマ、花粉などを餌にすることができる。また、飢餓や乾燥に対する耐性はミヤコカブリダニの方がチリカブリダニよりも優れている。特に高設栽培など乾燥しやすい施設では、ミヤコカブリダニの方が使いやすいといえそうである。

2.ガーベラでのミヤコカブリダニ(スパイカル)の利用事例

(事例1)
方法: 試験は2006年に宮城県農業・園芸総合研究所内のパイプハウス(300㎡、高設栽培)で実施した。供試したガーベラは2004年6月に株間15cm、2条植えに定植したもので、品種は「サルサ」、「イリュージョン」である。供試した天敵はミヤコカブリダニ(スパイカル)で、放飼量は6頭/㎡とした。5月16日および23日の2回、所定量の天敵を製剤の緩衝材ごと葉上から放飼した。調査は5月16日(1回目放飼前)から約7日ごとに、あらかじめマークした株の上位展開葉5葉に寄生するナミハダニ雌成虫数およびミヤコカブリダニ数をヘッドルーペを用いて計数した。
結果: ナミハダニとミヤコカブリダニの発生推移を第1図に示した。試験期間中のハウス内の気温は約10~35℃で推移した(第2図)。試験開始時のナミハダニの密度は葉当りで2頭程度であった。無放飼区でのナミハダニ密度は試験期間を通して増加したが、放飼区でのナミハダニ密度は1回目放飼7日後(5月23日)から減少し始め、その後も特に2回目放飼14日後(6月6日)以降は極めて低く推移した。また、放飼したミヤコカブリダニも放飼7日後には確認され、試験期間をとおして定着していた。以上のことからミヤコカブリダニの6頭/㎡、2回放飼は高い防除効果を示すことが確認された。
   
(事例2)  
方法: 2007年には宮城県内の現地圃場で実証した。実証圃場は10aの鉄骨ハウスで、品種は「メロウ」、「ロイヤルレイン」、「ミノウ」である。このハウス内を2分割し、天敵放飼区と無放飼区として比較した。9月28日、10月5日、11日の3回、所内試験と同様に、1㎡当り6頭相当量のミヤコカブリダニを緩衝材ごと葉上から放飼した。
結果: ナミハダニとミヤコカブリダニの発生推移を第3図に示した。試験期間中のハウス内の気温は約10~35℃で推移した(第4図)。試験開始時のナミハダニの密度は、放飼区、無放飼区とも葉当り1頭未満であった。無放飼区でのナミハダニ密度は10月16日以降急増し、10月26日には1葉当り166頭と激発した。それに対して放飼区では試験期間を通して極めて低密度に抑えることができた。
 
 所内と現地実証の以上の結果から、ガーベラのナミハダニに対しては、ミヤコカブリダニの利用が非常に有効であることが確認された。特に現地実証の結果から、ミヤコカブリダニの放飼はナミハダニの密度が低いうちに実施することがポイントである。前述したように、ミヤコカブリダニはハダニ類がいなくても圃場に定着できるので、例年ハダニ類の発生時期がほぼ決まっているような施設では、その時期にミヤコカブリダニ製剤が届くようにあらかじめ手配しておくことが重要だろう。

3.おわりに

 ハダニ類に対するミヤコカブリダニの防除効果について、花卉類のうち今回はガーベラでの効果について確認した。その他の品目ではバラではチリカブリダニの利用2)が、カーネーションではミヤコカブリダニの利用1)が取り組まれている。一般にカブリダニ類を含めて天敵の効果は緩慢であるため、害虫密度を十分に抑制するまでの間、害虫による被害がある程度進んでしまう。このような天敵の効果の現れ方から、花卉類で天敵を利用するに当っては、品目によってその効果や使いやすさが異なることが予想される。つまり、作物体のほとんどの部分を出荷するような品目ではハダニ類などの害虫による被害は直ちに品質低下となるため、天敵の利用は難しいといえそうである。しかし、たとえばガーベラの場合、葉を付けずに花だけを切り花として出荷する。そのため、葉にハダニ類の被害が残ったとしても、花弁に被害が出なければ問題はないと判断されるだろう。また、バラやカーネーションなどは、株を養成する葉と切り花として出荷する新梢部分が別になっている。この場合も、株を養成している期間はハダニ類の被害が多少発生しても、株自体が衰弱せず切り花部分に被害がなければ問題はない。このような品目ではカブリダニ類等の天敵は使いやすいといえるだろう。
 花卉類では前述したとおりハダニ類などの薬剤抵抗性の著しい発達が問題となっている。天敵が使いやすい品目は花卉類ではまだ限られているのかもしれないが、薬剤抵抗性の発達を遅延させるためにも、より多くの品目での天敵利用技術の開発が求められるだろう。


▲ミヤコカブリダニ


▲放飼風景


▲調査風景


▲ハダニを襲うミヤコカブリダニ


▲第1図 ガーベラのナミハダニに対するミヤコカブリダニの防除効果
(宮城農園研内圃場、2006年)


▲第2図 試験ハウス内の気温の推移(2006年)



▲第3図 ガーベラのナミハダニに対するミヤコカブリダニの防除効果(現地圃場、2007年)


▲第4図

実証ハウス内の気温の推移(2007年)

(宮城県農業・園芸総合研究所)

引用文献
1)森田知子ら(2006)第16回天敵利用研究会大会講要:8.
2)大野和朗ら(2007)第51回応動昆大会講要:58.


▲このページのTOPへ


この号のTOPに戻る

Arysta LifeScience Corporation